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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

戦後補償裁判――(20)「従軍慰安婦」訴訟4

T.O.記

2005年3月18日、東京高等裁判所において、中国人「慰安婦」が日本政府に対して謝罪と賠償と求めた裁判の判決がありました。朝10時という時間にもかかわらず、法廷には大勢の関係者・支援者が集まりました。

判決は、請求を棄却する、というものでした。まず、控訴人らの被害事実については、原審が認定した事実を引用し、そのまま認定しました。原審は、原告らが拉致・監禁され、連日にわたって性暴力を受けたという被害について詳細に認定し、PTSDの症状が今もなお継続していることを認めました。

国家無答責については、こうした加害行為が法令や規則、軍の命令に基づくものではなく、また戦争行為に付随する行為でもないため、国の公権力の行使に当たるものではないとして、その適用を否定しました。そして民法709条による不法行為責任は否定したものの、民法715条による使用者責任を認め、民法による損害賠償請求権を認めました。また中華民国民法による請求権も認めています。

しかし損害賠償請求権は、1952年に中華民国との間で締結された日華平和条約によって放棄されたと判断しました。加えて、除斥についても言及し、控訴人らの請求権は消滅したとしました。

国家無答責を適用した原審判決とは異なり、その適用を排除したことは評価できますが、あくまでも国家無答責の存在を前提に、本件への適用を排除したにとどまります。また平和条約等に基づく個人賠償請求権の放棄を認めた判決はきわめて異例です。これまで、日中共同声明などに言及する判決はいくつかありましたが、請求権を放棄したとは認めがたいと判断するのが、これまでの流れでした。これに対し、条約によって請求権が放棄されたというのは、賠償については政治的に解決したとする態度です。こうした態度は、原告らの受けた被害に対して、何の思いも寄せることのない、冷たいものではないでしょうか。また根拠とした条約が日華平和条約という点については、中国が一貫して当該条約の無効を主張していることから、今後、日中関係に影響を及ぼす可能性もあります。

この判決はさらに、その独自の戦争観を表明しました。「戦争は…国際間の紛争を解決する究極の手段である」とし、「正義の戦争であったかどうかは、後世の歴史的判断の領域の問題であり、法的紛争の解決の基準となることはない」としました。この点は、日本が中国を侵略したという点をあいまいにするものです。また、「国際紛争を解決する手段」としての戦争を否定した憲法第9条の理念を否定するかのようにも読めます。

また、「非戦闘員の大量殺戮は…戦争犯罪であることは明白、戦争遂行上の規範を逸脱する行為も、これと同様であろう」としつつ、「これらは戦争の狂気の結果であろう」として、本件における性暴力行為等を擁護するかのような表現も見られます。さらに「各国は、戦争が終結し、講和が成立した後は…自国民の戦争被害の回復を図り、旧敵国との間にも新たな関係を築くのが通例で、新たな戦争に備える場合の外は、人類の叡智として、旧敵国への無用の敵愾心をあおることを避け、平和を維持して来た」といいます。これは、中国人戦争被害者への賠償問題を解決してこなかったことの責任を中国政府に押し付け、さらに日本政府に賠償を求めることを「敵愾心をあおる」と非難するものであって、きわめて不当な態度であるように思われます。そもそも、原告・弁護団はこうした点についての判断を裁判所に求めていたわけではありません。

これまで繰り返し述べてきましたが、今年で戦後60年となり、被害者の高齢化が進んでいます。被害者に対する一刻も早い救済が必要であるように思われます。

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