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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

戦後補償裁判――(21) 731部隊・南京虐殺・無差別爆撃訴訟

T.O.記

入廷行進

2005年4月19日、東京高等裁判所において、731部隊・南京虐殺・無差別爆撃訴訟(この訴訟については、戦後補償裁判(2)もご覧ください)の控訴審判決が言い渡されました。この訴訟は1995年に提訴され、1999年9月22日に、東京地裁が原告らの請求を棄却する判決が言い渡されており、原告側が控訴していました。

この日は、開廷の1時間ほど前から、大勢の報道陣や支援者が駆けつけていました。午後1時10分、大勢の報道陣が待ち構える中、控訴人である敬蘭芝さんと、昨年12月に判決を聞くことなく亡くなった李秀英さんの遺影を先頭に、弁護士・支援者らが入廷しました。

午後1時45分、いよいよ判決の言い渡しです。裁判長は、主文を述べることなく、判決理由から述べ始めました。はじめに、控訴人らの主張の整理から始めました。傍聴していた私は、事実認定をしているのかと思いましたが、実際は“控訴人らはこう主張している”ということを、裁判所が整理しただけでした。


敬蘭芝さん

続いて争点が示されました。裁判所がまとめた争点とは、(1)外国軍による本件加害行為について、被害者個人が加害国に対し、損害賠償請求権を有するか、(2)旧日本軍の加害行為について、被害者が法例11条によって損害賠償請求できるか、(3)民法724条後段(時効・除斥)の適用があるか、という3点です。

そして各争点についての判断が示されました。裁判所は、(1)の争点について、加害国に対する被害者個人の損害賠償請求権を否定しました。その理由は、ヘーグ陸戦条約3条の規定についての制定過程や海外での実行例を検討すれば、同条は個人の請求権を認めたものとは解せないこと、また個人の損害賠償請求権の請求主体性を認める国際慣習法も成立していないこと、を挙げました。

(2)の争点について、旧日本軍の行為については法例11条の適用はなく、中華民国民法による請求はできない、としました。その理由は、第一に、旧日本軍の加害行為は公権力の行使であるので、国際私法が適用される事例ではないこと、第二に、仮に法例11条が適用されるとした場合であっても、法例11条2項は「日本ノ法律」によって「不法ナラサルトキ」は不法行為にならないと規定しており、大日本帝国憲法下では公権力の行使による不法行為については損害賠償を求めることができなかったとして、いわゆる国家無答責の法理を採用し、中華民国民法の適用を否定しました。


旗だし

(3)の争点について、仮に中華民国民法が適用され、不法行為の成立が認められたとしても、民法724条後段の除斥期間の適用があるから、請求権は消滅した、としました。

そして、最後に主文として、控訴人らの控訴をすべて棄却する、としました。傍聴席からは、「不当判決だ!」などといった抗議の声があがりました。

肩を落として法廷を出る弁護団や支援者たち。法廷から出る敬蘭芝さんは、両手を振り上げながら、「不当判決だ。抗議する」と、か細い声を何度も何度も上げていました。

午後2時10分頃には、裁判所の前に「不当判決」の旗が出されました。横では、呆然とした表情の敬蘭芝さんや、憮然とした表情の郭曼麗さん(敬蘭芝さんの娘)、陸hさん(李秀英さんの娘)が立っています。


抗議集会

裁判所前で行われた集会では、郭曼麗さんが「歴史を改ざんすることはできません。今日の判決は、日中関係を傷つけ、母を傷つけるものです。私は、正義ある判決を勝ち取るまでたたかい続けます」と抗議の声を上げました。また穂積弁護士は、「中国で行われた不法行為に対して、中国法が適用されないのはおかしい。日本国内で『北朝鮮』に拉致された被害者に対して、『北朝鮮』の法律を適用することが不当であるのと同じだ」、と述べ、裁判所の判断を強く批判しました。さらに、731部隊の元兵士である篠塚さんは「人間ならば、被害者の被害に思いをはせてほしかった。こんなことをしていては、日本はいつまでも国際社会に復帰できません」と述べました。

今回の判決は、近年でもまれに見る不当な判決でした。原審は非常に詳細に事実を認定したのですが、高裁は、控訴人らの被害事実にまったく触れませんでした。そして、形式的な法律論に基づいて、請求を棄却しました。すべての論点で国側の主張を採用したこの判決は、国家無答責を排斥するなど、個別論点では原告らの主張を認める傾向のある近時の戦後補償裁判の到達を踏まえないものでした。原告側は、ただちに上告することを決めました。

ここしばらく、中国では反日デモが盛んになっています。暴力行為は絶対に認められませんが、こうしたデモが行われる背景には、敬蘭芝さんらの受けた戦争被害に対して、日本政府がいまだきちんとした謝罪と賠償を行なっていないことに対する、中国人民の強い抗議の念があります。被害事実にまったく触れずに請求をすべて棄却した今回の判決に対しても、中国国内からの強い抗議が予想されます。こじれてしまった日中関係を修復するためにも、一日も早く、戦争被害者に対する謝罪と賠償が必要であるように思われます。

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