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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

戦後補償裁判(23)――海南島「慰安婦」訴訟

T.O.記

 2005年6月15日、東京地裁において、海南島「慰安婦」訴訟の口頭弁論が開かれました。学生を中心に結成された海南島訴訟の支援団体であるハイナンネットの呼びかけもあり、若い学生の傍聴者が傍聴席の半数を占めていました。

 海南島「慰安婦」訴訟は、日中戦争時に、海南島で「慰安婦」とされた中国人の女性らが、被害に対する賠償などを求めて提起している訴訟です。この日は、裁判所の構成が変わったということで、更新弁論が行なわれました。

 まず、坂口弁護士が、国家無答責について弁論をしました。被告国が、本件で問題になっている行為について、国家の権力的行為であり、いわゆる国家無答責の法理が妥当すると主張していることに対して、坂口弁護士は、国家無答責の法理が制定法に基づくものではないこと、現行民法典の起草過程に遡ってみると、公権力の行使による損害については、特別法がない限り、民法の規定が妥当すると考えられていたことなどから、そもそも国家無答責の法理には、合理性・正当性がない、と主張しました。

 また、仮に国家無答責の法理が妥当するとしても、公権力の行使といえるためには、法の授権が必要であることや、名宛人が統治権に服するものであることなどの条件を満たす必要があるが、本件ではそのような条件を満たさないとして、本件に国家無答責の法理は適用されない、と主張しました。さらに、公権力の行使であるとしても、正義公平の理念に照らし、本件のように、加害行為の残虐性、被害の甚大性などを考慮すれば、国家無答責の法理を適用すべきでない、と主張しました。

 続いて、中野弁護士が、時効・除斥について弁論しました。まず、法例11条1項によって、本件には中国法が適用されるから、日本民法の規定は適用されないと主張しました。そして、仮に日本民法が適用されるとしても、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきであると主張し、本件での被害はPTSDによるものであって、現在も進行中であるから、起算点が到来していないと主張しました。さらに、仮に時効・除斥が適用されるとしても、正義公平の理念から、その適用が制限されるべきだと主張しました。

 続いて、再び坂口弁護士が、条約による請求権放棄について弁論しました。まず、日華平和条約は中華人民共和国には及ばないことを指摘しました。日中共同声明による請求権放棄についても、中国側は、個人の請求権まで放棄してはいないと認識していること、日本政府としても、1992年に、加藤紘一官房長官(当時)が同様の認識を示していることなどを指摘し、個人の賠償請求権は放棄されていないと主張しました。

 最後に小野寺弁護士が、訴訟の意義と裁判官に望むことについて弁論しました。小野寺弁護士は、本件の原告で、今年の3月16日に法廷で証言をした林亜金さんの被害について、想像力を働かせて欲しい、と訴えました。17歳の少女が日本軍に突然拉致され、軍営に監禁され、そして強姦された彼女が、どのような恐怖感を抱き、どのような苦痛を受けたのか。そのとき、どのような悲鳴をあげていたのか。そして毎日何人もの兵士に強姦されつづける状況。そして、被害者のみならず、家族も味わった屈辱と憤怒、消すことのできない心の痛みや悲しみ。そして中国人の多くが、こうしたことを民族的恥辱と受け止めている事実を指摘しました。

 そして小野寺弁護士は、自ら中国を訪問し、被害実態を調査していく中で、中国人の多くは親族に戦争被害者がおり、そのために受けた被害を今も生々しく語る姿に出会っていると述べました。こうした自らの体験に照らして、民族的屈辱は、時間の経過によって消滅するものではなく、きちんとした歴史認識と、それに基づく真摯な謝罪が必要であると指摘しました。

 そして裁判官に対して、加害と被害の実態に目を向け、とりわけ被害者のうけた被害に想像力を働かせること、及び、本件訴訟が国際的にも注目されているということを認識死すること、の2点を求め、弁論を終えました。

 その後、弁護士会館で行なわれた報告集会では、ハイナンネットの学生たちが、3月に法政大学で行なった林亜金さんの証言集会の模様をビデオで放映しました。私は3月に林さんの証言を聴くことができなかったのですが、ビデオによって、彼女の受けた被害の実態を、彼女自身の口から聴くという、貴重な体験ができました。

 本件訴訟については、引き続き報告していきたいと思います。次回期日は、7月20日午後2時半から、東京地裁627号法廷です。

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