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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

戦後補償裁判――(3)遺棄毒ガス・砲弾訴訟 その1

I.M.記
勝訴判決の言い渡し直後の原告。
同僚の遺影をもつ原告・李臣さん(左端)と原告・劉敏さん(右から2人目)
2003年9月29日・東京地方裁判所前

 2003年9月29日、遺棄毒ガス・砲弾第一次訴訟の判決が、東京地裁で言い渡されました。原告の主張を全面的に認めた画期的判決でした。戦後補償裁判は、これまで70件以上が提訴されてきましたが、今回の判決はそのなかでも最も原告の主張を採用し、したがって国の責任を正面から認定した判決となっています。

 遺棄毒ガス・砲弾訴訟とは、旧日本軍が日中戦争中に中国に持ち込んだ毒ガス兵器や砲弾を敗戦前後に遺棄・隠匿し、国がその後も放置していたため、戦後、中国東北部でそれら遺棄兵器による事故が発生し、その被害者や遺族が日本政府を被告として提訴したものです。訴訟は、第一次訴訟と第二次訴訟からなりますが、2003年5月15日には、第二次訴訟について原告の請求を棄却する判決が東京地裁で言い渡されていました。

 判決の特徴は、大きく事実認定と法的評価とに分けることができます。
 まず、事実認定ですが、2つの判決に共通するのは、原告の被害事実についての丁寧な認定です。9月判決は、旧日本軍が毒ガス兵器などを製造・配備(中国への持ち込み)・使用・遺棄・隠匿した事実を認め、これらの遺棄・隠匿行為は、上官の命令により組織的に行われたことから国の公権力の行使にあたると認定しました。また、毒ガス兵器の使用が、当時すでに国際法(ジュネーブ議定書)違反であったことも認定しました。さらに、各事故について、旧日本軍の駐屯状況や弾薬倉庫の配置、遺棄兵器の形状などから旧日本軍の遺棄兵器によるものだとして、その因果関係も認めました。これら一連の認定は、5月判決とほぼ共通するものです。

 しかし、法的評価をめぐっては判断が分かれました。2つの判決は、遺棄行為が国の公権力の行使として実行されたものであり、これによって人の生命や身体に対する危険な状態が作り出されたが、このような先行行為がある場合、(1)人の生命や身体に対する差し迫った重大な危険があり(危険の存在)、(2)国としてその結果の発生を具体的に予見することができ(予見可能性の存在)、(3)作為に出ることにより結果の発生を防止することが可能であるときには(結果回避可能性の存在)、条理上、国には法的義務としてその危険な状態を解消するための作為義務が認められるとし、この場合の不作為は違法なものと評価されるとする要件を設定しましたが、このあてはめをめぐっては異なる評価を与えました。

 5月判決は、毒ガス兵器に関しては、(1)と(2)の存在を認めたうえで、(3)について、日本の主権が中国国内には及ばないことから、毒ガス兵器の回収などを行うためには中国政府の関与が必要であるが、中国政府の対応如何によってその効果は左右されうることから、そのような場合には国に結果回避義務までは負わせられないと判示しました。また、遺棄砲弾に関しては、(1)の存在は認めたものの、(2)について、通常兵器である砲弾は旧日本軍によって多量に保管・使用されていたことから、遺棄砲弾の所在場所を把握することは不可能であったなどとして予見可能性を否定しました。これらのあてはめから、5月判決は、原告の被害事実は認めたものの、国の法的責任は否定し、結論として原告の請求を棄却しました。

参考ホームページ: http://ec.uuhp.com/~justice/

(法学館LawJournal2003年10月16日配信号より転載)

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