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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

戦後補償裁判(31) 福岡強制連行第二次訴訟判決

T.O.記

2006年3月29日、福岡地裁において、福岡強制連行・強制労働第二次訴訟に対する判決が言い渡されました。判決は、原告らの請求を全て棄却しました。3月10日に言い渡された長野判決とその論理をほぼ同じくする、全くの不当判決でした。以下、判決の内容を見ていきたいと思います。

本件は、戦時中に、中国から日本へ強制的に連行され、日本において強制労働させられた中国人被害者らが、日本政府と、三井鉱山および三菱マテリアルの二企業を相手に、謝罪と損害賠償を請求した事件です。2002年4月26日に強制連行・強制労働第一次訴訟が同じく福岡地裁で企業に勝訴したことを受け、戦後補償裁判では異例の45人という大規模な原告団を組織して提訴されていました。

まず判決は、原告らが旧日本軍によって、強制的に日本へ連行されてきたこと、事業所において支給された食事や衣服が不十分だった上、休みもほとんど与えられず、賃金も全く支払われなかったことを認めました。また、監督していた日本人から暴行を受けたことや、そうした暴行の後遺症(例えば、足を骨折したが、十分な治療が受けられなかったため、現在も歩行に際して杖が必要)が現在も残っていることも認めました。

続いて、法的な争点についてです。主な争点は、(1)国と企業の不法行為責任の有無、(2)「国家無答責」の適用の是非、(3)時効・除斥の適用の是非、(4)安全配慮義務違反の有無、です。以下、各争点についての裁判所の判断を見ていきたいと思います。

争点(1)国と企業の不法行為責任について、先に認定した事実から、原告らが、暴力や脅迫を受け、あるいは騙されて、日本へ強制的に連行されたものであり、不法行為であるとしました。また、各事業所における労働も、原告らの意図に反するものであったこと、逃亡ができないよう監視体制が敷かれていたこと、現場での暴行・暴言などがあり、不法行為であるとしました。

そして、以上の不法行為が、1942年の閣議決定などをもとに行なわれたこと、原告らが日本軍兵士らに身柄を拘束され、日本へ連行されたこと、政府は国家総動員法などによって各事業所を監督・指導していたことなどから、日本政府がこうした不法行為を行なったものであると判断しました。

また、被告企業は、原告ら中国人労働者の引渡しを受けたこと、来日が原告らの意に反するものであったことを知っていたこと、中国人労働者の雇用願を厚生省に提出し、中国人労働者の供出割り当てを受けていたことなどから、強制連行・強制労働について、国との共同不法行為であると判断しました。

争点(2)国家無答責について、国家賠償法附則6項が、国家賠償法施行前の行為に基づく損害については、「従前の例による」と定めていることの意義を検討しました。そして、 明治憲法下における行政裁判法第16条が、行政裁判所は損害賠償請求訴訟を受理しないと定めていたこと、裁判所構成法の制定過程において、国家賠償請求訴訟を認める規定が削除されたこと、民法制定過程において、国家責任に関する文言が削除されたことなどから、明治憲法下においては、国家無答責の法理が成立していたと判断しました。また、大審院判例によっても、国家無答責の法理が確認されているとしました。したがって、国に対して、原告らは、損害賠償の請求をすることができないと判断しました。

争点(3)時効・除斥について、民法724条後段が、「不法行為ノ時ヨリ二十年」と定めており、不法行為の時とは、加害行為のあったときとするのが通例であるとして、その起算点を、加害行為の終了した時点、すなわち、原告らが強制連行・強制労働から解放されたときであるとしました。したがって、起算点は、1945年の8月15日ないし同月末日だとしました。

原告らは、正義・公平の理念から除斥の適用を制限した1989年の最高裁判決を援用して、本件でも除斥の適用が制限されるべきだと主張しましたが、原告らが権利の行使をできなかったのは、中国国内の事情によるところが大きく、被告らの行為によるものではないことなどを理由に、除斥の適用を制限すべきとの主張をしりぞけました。

したがって、被告らに対する原告らの損害賠償請求権は、1965年8月末日をもって消滅したと判断しました。

争点(4)安全配慮義務について、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係」にある場合に認められる信義則上のものであるとしたうえで、使用者と労務者の間に直接の契約がない場合には、「両者の間に事実上の使用関係、従属関係、指揮監督関係が成立しており、労務の提供に当たって、使用者の設置ないし提供する場所、施設、設備、器具等が用いられている」場合に、安全配慮義務が認められるとしました。

そして、本件においては、被告企業が、原告らを直接支配・管理しており、原告らは被告企業の提供する道具等を使用していたこと、他方で、厚生大臣は、原告らの労働条件に対して、具体的な指示・監督をしていたという証拠がないことから、国と原告らの間に、「特別な社会的接触」は存在せず、国は原告らに対して安全配慮義務を負わないとしました。

被告企業については、原告らとの関係が、不法行為によって成立したこと、したがって、ただちに解放されるべきであったこと、他方で、安全配慮義務が成立するためには、原告らが労務の提供に同意していたことが前提となっているとして、安全配慮義務の存在を否定しました。

以上のように、裁判所は、原告らの主張を全てしりぞけ、請求を棄却しました。

判決に対して、来日した原告は、「国と企業の不法行為を認めながら、謝罪と賠償を認めないというこれほど矛盾した判決があるのか」、「正義感のかけらもない、最低最悪の判決だ」とコメントしたそうです(西日本新聞3月29日付夕刊)。また、石川捷治九州大学大学院法学研究院教授は、「最も誠実さを欠いた判決」と批判しています(西日本新聞3月29日付夕刊)。

近年の判決は、中国人の強制連行・強制労働について、日本政府と企業の共同不法行為を認めています。そうであるならば、時間の経過や「国家無答責」などの論理で、この不法行為を免責することなく、司法がきちんと謝罪と賠償をさせるべきではないでしょうか。憲法9条は、二度と戦争をしないという決意のみならず、日本が戦争でもたらした被害に対して、積極的な救済をすることを含意していると解釈できます。憲法9条がよって立つ理念からも、本件原告らは、早急に救済されるべきだと思われます。

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