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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

戦後補償裁判(37)――強制連行新潟訴訟控訴審4

T.O.記

先週に引き続き、強制連行新潟訴訟の控訴審の口頭弁論についてレポートします。

次に意見陳述を行ったのは、泉澤章弁護士で、条約等に基づく賠償請求権の放棄の問題についてです。泉澤弁護士は、まず、サンフランシスコ平和条約にもとづく賠償請求権の放棄について、中国が当事者になっていないこと、日華平和条約は中国大陸を含まないことを指摘し、こうした条約に基づく中国人個人の賠償請求権が放棄されたという主張は、国際法上成り立たないと指摘しました。そして、日華平和条約による請求権放棄を認めた2005年3月18日東京高裁判決(これについては、戦後補償裁判(20)をごらんください)は、先例や国際法の通説的見解を無視した特異な判決であると、厳しく批判しました。

また、日中共同声明による賠償請求権については、これが「政治的な声明」であり、法的な意味を持つかどうか、検討しました。そして、共同声明の起草過程で個人賠償請求権の放棄には言及されていないこと、サンフランシスコ平和条約や日ソ共同宣言、日韓条約などとは違い、個人の賠償請求権に言及していないこと、中国政府高官が個人賠償請求を支持していることなどから、日中共同声明により個人の損害賠償請求権は放棄されているとは言えないと主張しました。

続いて、川村正敏弁護士が、被害者の心情について意見陳述を行いました。河村弁護士は、2000年に北京で原告の一人、安登山さんと会って事情を聞いた時の話をしました。当初、淡々と語っていた安さんは、話が新潟での強制労働に及ぶと、両腕を震わせ、大声で憤怒の感情を表したそうです。60年たっても、強制労働に対する辛い思いは消えていないということを知らされたといいます。

また川村弁護士は、かつて、ある地裁の所長の講演で、「画期的判決といわれるものを、機構の中の一員である裁判官が出せるわけがない。しかし、我々でも半歩前に出ることはできる」という旨の話を聞いたこと、この裁判官がかつて「画期的判決」と呼ばれる判決を書いたこと、そしてこの裁判官にとって、その判決は「半歩前に出た」判決であったのだな、と思い出したことに触れ、本件でも、一審判決は半歩前に出た判決をしたのであり、東京高裁も、その判決を維持し、半歩下がることがないよう求めました。

次に、高橋融弁護士が、ILO条約勧告適用専門家委員会から、戦時中の強制労働が条約違反であることを指摘され、被害者に対する救済策を取るよう勧告されていることに触れ、訴訟の場で時効や国家無答責により責任回避をしようとする政府を厳しく批判しました。そして、日本国憲法の前文が「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と述べていることを引き、「専制と隷従、圧迫と偏狭」の典型が強制労働であって、これに対する救済を与えることこそ「名誉ある地位」を占めることになる、と述べました。

続いて、松岡肇弁護士が、訴訟の意義について、強制労働福岡訴訟を引き合いに出しつつ意見を述べました。松岡弁護士は、そもそも裁判の目的が、事実を直視し、条理に基づいて、正義・公平の見地から法的正義を実現することにあると述べました。

福岡地裁は、国家無答責を認めて、国の責任は認めなかったものの、企業の責任については、不法行為責任を認め、時効・除斥を「正義衡平の観念」からこれを排斥し、原告に対して賠償を命じ、不十分ながら正義の実現を果たしました。ところが福岡高裁は、時効・除斥の適用を認め、逆転敗訴判決となりました。しかし、いずれの判決も、本事件は人間の尊厳を著しく傷つける行為であったことを認めています。

そして、松岡弁護士は、国と企業が、証拠を隠滅して事件を闇に葬ろうとしたこと、国会では事実を認めず、法廷では事実認否をしないまま、時間の経過(時効・除斥)によって責任を免れようとしたことに対して、どのような残酷な仕打ちをしても、証拠を隠して時間の経過を待てば、加害責任が免責されるというのが法の精神なのか、と厳しく問い詰めました。最後に、新潟地裁が正義の実現を図った判決であり、東京高裁の裁判官も、この明かりを消すことの内容、勇気をもって正義の判断を示すことを期待すると述べて、意見陳述を終えました。

最後に、中国人戦争被害者損害賠償請求事件弁護団の団長代行である小野寺利孝弁護士が意見陳述を行いました。小野寺弁護士は、この裁判において、勝利判決を獲得するために必要かつ十分な「事実」と、戦後補償裁判が到達した最高水準の「法理論」を示すことができたと確信していると述べました。しかし、「判決」を作るのが裁判官であること、そして、勝利判決を確信しながら、何度も敗訴判決を言い渡されるという経験をしてきたこと、さらに一審で勝訴しながら、二審で逆転敗訴した体験もあると述べました。そのため、勝利判決を確信しながらも、確信が揺らぎ、裁判官に対して何を訴えればいいか考えがまとまらなかったと告白しました。

そんな時、強制連行新潟訴訟の弁護団長である中村洋二郎弁護士が、勝利判決へのすさまじい執念から、「裁判官の前に土下座してでも勝利判決がほしいと思う。卑屈だと思われるかもしれないが、被害者のためなら土下座も辞さない」と述べたことを思い出したそうです。小野寺弁護士は、中村弁護士の構えと気迫に圧倒されながらも、土下座ということには違和感も覚えたそうです。しかし、昨今、中村弁護士のこの一言が、自分の中でも日増しに重みを増してきている、と述べました。

そして、「土下座してでも勝利判決がほしい」という思いについて、その理由を述べました。第一に、困難な条件を乗り越え、勇気をもって立ち上がった原告らのために、日本政府と企業による謝罪と賠償の要求を実現させたいという一念、しかも、原告らが高齢化していることから、「命あるうちに解決を」という思いに、なんとしても応えたいと思っているからです。第二に、この新潟訴訟の判決が、他の強制連行・強制労働事件の帰趨を決するだけの重みを持っていると認識しているからです。そして第三に、判決内容次第では、被害者救済を拒否してきた国の政策が変わる可能性があると考えるからです。

そして、「過去の克服」、すなわち、ナチス時代の過ちを直視し、そこから教訓を導いて、それに基づいて未来を創造することを目指して、過去の残虐な行為の不法を認め、加害者に真摯な謝罪をして、補償を行ったドイツの例を引きました。こうした営みにより、ドイツは未来志向の信頼関係を多くの国と構築することができました。そして、日本でも、同じように強制労働事件を全面解決する日が来ると確信している、と述べました。

最後に、この判決が、その全面解決に至る一里塚であるとして、いつの日か、「あの判決こそ、強制連行・強制労働事件の全面解決への歩みを大きく促進させた決定的な判決だ」と日中両国民から評価される内容であることを願っていると述べ、そして、「司法の正義を示す勝利の判決を下さい」と訴えて、意見陳述を終えました。小野寺弁護士は、意見陳述の間、時おり涙を流しているように見えました。小野寺弁護士の気迫、想いが胸に迫ってくる素晴らしい意見陳述でした。

以上の意見陳述をもって、控訴審は結審しました。判決の言い渡しについて、若干手間取りましたが、裁判所が、2007年3月までに言い渡したい(つまり、裁判官の異動があるまえに言い渡したい)という希望を述べたことで、3月14日午後2時から、101号法廷で言い渡されることが決まりました。

強制連行・強制労働被害者の悲痛な叫び、遺族の苦労、そして弁護団による高い水準の法理論と熱い想いを法廷で聞き、本件での勝利判決を私も強く願いました。

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