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戦後補償裁判――(4)遺棄毒ガス・砲弾訴訟 その2

I.M.記

 2003年9月判決は、毒ガス兵器のみならず遺棄砲弾に関しても、(1)〜(3)の存在を全て認める判断を示しました。9月判決は、(2)について、国は、中国から引き揚げてきた旧日本軍関係者から事情を聴取し、軍関係の資料を調査するなどの方法によって、毒ガス兵器の配備状況や弾薬倉庫の使用状況、敗戦前後の遺棄状況などについて相当程度の把握をすることができたとし、遺棄砲弾についても予見可能性を認定した。また(3)についても、被害発生防止のために、可能な限り情報を収集したうえで、中国政府に対し遺棄兵器に関する調査や回収の申出をすることは可能であったのであり、こうした情報が提供されていれば、中国政府による調査や回収などの作業が促進され、中国国民も遺棄兵器への対応を慎重にした可能性があったとし、国が1972年の国交回復後にもこうした措置を履行せず不作為を継続させたことは、違法な公権力の行使にあたると判示し、原告の請求を認容しました。

 なお、第一次訴訟においては、1974年に事故にあった李臣を含む原告3名について、提訴が1996年であったことから除斥期間の適用が争点となっていました。この点、9月判決は、本件で除斥期間の対象とされるのは、当時すでに国際法に違反する毒ガス兵器を配備・使用していた旧日本軍が、ポツダム宣言にも違反して組織的に遺棄・隠匿したという違法な行為につき、戦後においても被害発生防止のための情報収集や中国への情報提供をせず、中国との国交回復後にも積極的な対応をとらずに遺棄毒ガス兵器を放置してきたという行為であり、その行為にはわずかな正当性も認めることができない一方、原告は、1986年の中国公民出国入国管理法施行までは私事で出国することが制度的に不可能であり、そのために原告が被告に対して権利行使することは1986年までの11年間は客観的に不可能だったことを鑑みると、被告が除斥期間の適用によって損害賠償義務を免れることは著しく正義・公平の理念に反すると判示し、除斥期間の適用を制限しました。

 9月判決の意義としては、まず詳細な事実認定が挙げられます。この点は2003年5月判決も共通しますが、国は、すでに裁判所から二度にわたって毒ガス兵器の遺棄行為について認定され、しかも当時からすでに国際法違反だったと判示されている事実を厳粛に受け止めなければならないでしょう。

 また、結果回避可能性に関する評価もあります。9月判決は、5月判決の論理を明確に否定しつつ、中国政府に対する日本政府の主体的・能動的な対応を要求し、その継続的不作為を違法と認定しました。将来にわたり日本政府に可能な限りの調査・回収を求める内容であり、妥当な判断といえます。またこの論理は、現在提訴されている中国残留孤児訴訟にも大きな影響を与えるものであり、その意味でも重要です。

 毒ガス被害については、すでに茨城県神栖町など国内でも被害が生じており、また中国でも今年8月にチチハルで新たな事故が発生し、中国政府と協議している現状にあります。今回、政府は控訴を決めましたが、問題となっているのは、まさに現在進行形の被害です。速やかな全面解決が求められているといえます。

 <参考資料>
中国国内における毒ガス兵器被害
(5月判決および9月判決を基に作成)

1945年 ・チチハル市フラルキ区にて、毒ガス缶から漏洩し5人負傷
  ・黒河地区上馬廠村にて、毒ガス缶から漏洩し3人負傷
1946年 ・黒河地区法別拉村にて、毒ガスから漏洩し1人死亡、3人負傷
  ・敦化市林勝郷大甸子村にて、毒ガス砲弾から漏洩し3人負傷
1950年 ・チチハル市の黒龍江省第一師範学校内にて、毒ガス缶から漏洩し1人
死亡、8人負傷
1967年 ・東寧県城にて、毒ガス缶から漏洩し2人負傷
1970年 ・依安県双陽鎮にて、毒ガス砲弾から漏洩し1人死亡、4人負傷
  ・吉林省にて、毒ガス缶から漏洩し7人負傷
1971年 ・雲南省にて、毒ガス缶から漏洩し1人死亡、4人負傷
1974年 ・黒龍江省松花江にて、毒ガス砲弾から漏洩し少なくとも4人負傷
  (本件第一事件)
1976年 ・拝泉県竜泉鎮衛星村にて、毒ガス砲弾から漏洩し8人負傷
1978年 ・黒龍江省チャムス市にて、毒ガス砲弾から漏洩し少なくとも1人負傷
1982年 ・黒龍江省牡丹江市にて、毒ガス缶から漏洩し少なくとも1人負傷
  (本件第二事件)
1987年 ・チチハル市フラルキ区にて、毒ガス缶から漏洩し8人負傷


参考ホームページ: http://ec.uuhp.com/~justice/

(法学館LawJournal2003年10月30日配信号より転載)

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