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戦後補償裁判(41)――強制連行新潟訴訟控訴審判決

T.O.記

入廷行進
2007年3月14日、東京高裁において、中国人強制連行新潟訴訟に対する控訴審判決が言い渡されました。この訴訟は、新潟地裁が、企業のみならず、国の安全配慮義務違反をも認めて損害賠償の支払いを命じる原告全面勝訴の判決をしていたこともあって、大きな注目を集めていました。75枚の傍聴券を求め、120人ほどが列を作りました。幸い、私は傍聴券を引き当て、判決を傍聴することができました。

午後2時になり、裁判官が入廷しました。冒頭、2分間のビデオ撮影が行われました。そしていよいよ判決の言い渡しです。裁判長が「原判決中、控訴人らの敗訴の部分を取消す」と言いました。つまり、被控訴人・原告らの敗訴でした。すぐに傍聴席から「不当だ!」「ひどい!」といった声が上がりました。裁判長はその声を制止することなく判決の言い渡しを続けました。主文に続き、判決理由の骨子を述べると、裁判官たちは退廷していきました。その背中に向けて、「不当判決だ!」「むちゃくちゃな判決をするな!」といった声が投げかけられていました。

それでは、法廷で傍聴人らから厳しい批判の声が飛んだ判決の内容について、簡単に解説します。


旗出し

判決は、一審新潟地裁が認定した強制連行・強制労働の事実を、改めて認定しました。そして、国及び企業(リンコーコーポレーション)が「被控訴人らの身体、自由等にかかわる権利を違法に侵害した」としました。

しかし、国に対して、こうした強制連行・強制労働は閣議決定に基づいて関係省庁間の連携の下で行われた「公権力の行使」であって、いわゆる「国家無答責の法理」(明治憲法下での国家行為については、市民に損害を与えたとしても賠償しなくてよいとする法理)が妥当するとして、被控訴人らの訴えを斥けました。

そしてリンコーコーポレーションに対しては、民法723条後段が定める「除斥」の適用があるとしました。そして加害行為は遅くとも1945年11月には終了しており、1965年11月頃には除斥期間が経過し、被控訴人らの損害賠償請求権は消滅したとしました。最高裁判例に基づき、正義衡平の観念から除斥期間の適用が制限されるという被控訴人らの主張についても、「(最高裁判例とは)事案を異にしている」という一言で斥けました。


康健弁護士

続いて、安全配慮義務(労務の提供に際して、労働者の生命・健康等を危険から保護するよう配慮すべき使用者の義務)についてですが、まず国については、被控訴人らとの間に、労働関係やそれに準ずる関係がなかったとして、安全配慮義務が存在しなかったとしました。

企業の安全配慮義務について、企業は被控訴人らと雇用契約を結んではいないものの、被控訴人らの労務は、企業の指揮監督・管理の下でなされたとして、雇用関係にあるのと同視できるとして、安全配慮義務の存在を認めました。そして、新潟港に強制連行された901人の中国人労働者のうち、159名が栄養失調や呼吸器疾患で死亡したことなどから、企業には安全配慮義務違反があったとも認めました。

しかし裁判所は、安全配慮義務違反に対する損害賠償請求の消滅時効は10年であって、1955年10月頃にはその損害賠償請求権が時効によって消滅したとしました。被控訴人らは、強制連行・強制労働という行為の悪質性や、今も回復しないという被害の甚大さなどを理由に、時効の援用は権利濫用だと主張しましたが、裁判所は、そうした事情は損害賠償請求の内容に関わるのであって、権利の行使がされないことに関する事情ではないなどとして、その訴えを斥けました。

判決が言い渡されたあと、裁判所前で弁護士による判決要旨の説明がありました。また、原告たちが判決に対するコメントをしました。被害者遺族である張一憲さんは、「司法の責任を放棄した判決だ。私は最後まで闘いぬく決意だ」と述べました。中国人弁護士である康健さんは、「激しい憤りを覚える。このような判決を書く人を法律家と言えるのか。表面的には事実認定をしつつ、国に対しては国家無答責で免責、企業については除斥で免責した。強制的に捕まえてきて労働させたのに、責任がないといえるのか。まさに強盗の論理だ」と判決を厳しく批判しました。また強制労働の被害者であるケイ念芳さんは、「私は強制連行され、強制労働させられて、苦労し続けた人間だ。この不当な判決に憤りを覚える。最後まで闘う」と述べました。

この後、衆議院第二議員会館の第二会議室で、国会議員も招いての集会が行われました。集会には細川律夫衆議院議員(民主党)や近藤正道参議院議員(社民党)が参加しました。細川議員は、「皆さんの声が届かず、不当な判決だ。60年以上苦しんできた人たちに対し、なぜ救済の手が差し伸べられないのか、残念に思う。私としては、政治的解決の道を探っていく必要がある。厚生労働委員会でこの問題を取り上げて、政府に対し解決を求めて生きたい」と述べました。

近藤議員は、かつて弁護士としてこの訴訟の代理人を務めており、第一審の第一回口頭弁論では意見陳述もしたそうです。近藤議員は、「一審がいい判決だったので二審でも期待していたが、敗訴と聞いて残念に思う。今後については協議する必要があるが、法廷の中だけで解決できる問題ではない。今後とも頑張っていきたい」と述べました。


議員会館での報告集会で発言する
原告のケイ念芳さん

その後、改めて弁護士から判決の解説がなされたり、原告らが判決についてのコメントや今後の決意を述べたりしました。また、西松事件について最高裁が弁論を開くとした、請求権の放棄の問題について、田中宏龍谷大学教授が、サンフランシスコ平和条約や日華平和条約などとの比較や、政府自身の発言などをもとに解説し、中国国民の請求権については、放棄されていないと指摘しました。また高橋融弁護士から、強制連行の問題についてのILO(国際労働機関)からの勧告について解説がなされました。

前日の遺棄毒ガス・砲弾訴訟での敗訴判決に続き、一審では勝訴していた強制連行新潟訴訟でも敗訴判決が言い渡され、さすがに弁護団や支援者たちも気落ちしていました。また5年ほど前まではよく見られたものの、ここ数年は克服されつつあった国家無答責と時効・除斥を理由として訴えが斥けられたことは、これまでの到達点から大きく後退するものであり、その意味でも弁護団や支援者にはショックを与えるものでした。

しかし、近藤議員も指摘していた通り、訴訟による解決がすべてではありません。議員の中には、こうした戦後補償問題に関心を持ち、精力的に活動している方もいます。訴訟に参加していない被害者たちの救済ということも考えるならば、政治的解決を求めていくことも大切です。2日続けての敗訴判決は非常に残念でしたが、これにめげることなく、ともにたたかっていきたいと思います。

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