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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

戦後補償裁判(42)――海南島戦時性暴力訴訟4

T.O.記
2007年5月15日、東京高裁において、海南島戦時性暴力被害訴訟の第一回口頭弁論が開かれました。法廷は傍聴希望者ですべて埋まりました。傍聴者は若い学生がほとんどであり、その点でも目を引く光景でした。

さて、この日は弁護団から控訴理由についての意見が述べられました。以下、紹介します。

まず山田勝彦弁護士が、原審が原告らの被害を戦争犠牲としたことを批判しました。山田弁護士は、そもそも原告らは性奴隷とされ、日々兵士らに強姦されたというのであり、戦争の遂行とは関係のない被害であって、戦争犠牲とは言えないと主張しました。また、「慰安婦」は日本政府が性奴隷制度を作ったものであるというのが国際的な認識であり、国連人権委員会やILOなどから被害者への救済措置を取るよう何度も勧告されていることを指摘しました。

続いて杉浦ひとみ弁護士が、PTSDと国家無答責について意見を述べました。杉浦弁護士は、14〜17才の少女が拉致・監禁され、強姦されるという姿を、自分の子どもや孫がそうされたらと想像してほしい、と述べました。そしてPTSDとは強い恐怖などによって引き起こされる精神症状で、ベトナム帰還兵らにも見られる症状であることを紹介しました。そして原審においても、このPTSDが被害として認められたが、2007年3月に比較文化精神医学者である野田正彰氏と海南島で調査を行なったところ、これまでの認識を超える被害が新たに発見されたと述べました。野田氏は「想像を絶する被害」と述べたそうです。したがって、当審において、改めて原告の被害を認識してほしい旨、述べました。

また国家無答責について、原審では採用されたものの、2003年以降、下級審において国家無答責を排斥する判決もいくつか見られること、本件は尊厳ある人間の人間性を破壊した事件であり、その被害は言葉で語りつくせぬほどのものであって、国家無答責の適用に合理性はないと主張しました。

続いて、中野比登志弁護士が時効・除斥について意見を述べました。中野弁護士は、被害者たちが被害を法的損害と認識できず、また訴えを提起する手段も持っていなかったことを指摘し、民法の規定(時効・除斥を定める民法第724条)をそのまま適用してよいのか、と訴え、被害者に有利な方向で法の解釈適用をしてほしいと主張しました。

次に、坂口禎彦弁護士が、日中共同声明による請求権放棄について意見を述べました。この論点については、今年の4月27日に最高裁によって、個人の賠償請求権も放棄されたと判決されています。しかし坂口弁護士は、そもそも国家が個人の賠償請求権を放棄できるのかどうか、また、仮に放棄できるとして、当時は認識されていなかった被害についてまで放棄できるのか、といった点に疑問を提起しました。また、本件は、戦後も名誉毀損や精神的被害が継続しており、こうした違法な先行行為に基づく救済義務について問われている事件であると指摘し、河野官房長官(当時)の談話や村山首相(当時)の談話などを援用して、解決を求めました。

最後に、小野寺孝利弁護士が、安倍首相の「狭義の強制はなかった」「日本に謝罪を要求するというアメリカ下院の決議があっても謝罪しない」とする発言について、国際認識は違う、と批判しました。実際、日本政府は、国連人権委員会やILOなどから度々、この問題についての謝罪と賠償をするよう勧告されています。また安倍首相が訪米し、ブッシュ大統領に対して「謝罪」したことについて、謝罪は、アメリカに対してではなく、被害者に向けて行うべきであり、行動を伴うべきであるが、それがなされていないと批判しました。

そして小野寺弁護士は、裁判官に対し、(1)事実認定のプロとして真相に肉薄し、女性の受けた被害についての認識をきちんと踏まえること、(2)被害者に対する日本政府の責任を明らかにし、司法の場から政府に応答責任を提示すること、(3)代理人らの主張を正面から受け止め、解決を目指すこと、そして同時に、国際世論も踏まえ、和解の提示も選択肢に入れること、という3つの要望を伝え、意見陳述を終えました。

続いて、被控訴人の国の代理人弁護士から、最高裁でも請求権放棄を認める判決がなされており、直ちに結審して請求を棄却するべきとの意見陳述がなされました。

双方の意見陳述が終了した後、今後の進行について、裁判官らが合議を行うとして退廷しました。合議は5〜6分で終わるものと思っていたのですが、長引き、20分経っても裁判官が出てきませんでした。そのため、もしかしたら、次回にでも結審してしまうのではないかという不安が、原告側代理人や傍聴席の間で広がりました。合議から30分ほどして、裁判官がでてきて、次回以降の期日を3回入れることとなり、すぐに結審するという結果は免れました。なお、次回以降の期日は、次回が2007年9月25日午前10時から818号法廷、次々回が2008年1月15日午後2時、その次が2008年3月13日午後2時からです。

口頭弁論が終了した後、弁護士会館で報告集会が開かれました。

坂口弁護士から、今日の法廷についての解説がなされた後、杉浦弁護士から、3月の海南島訪問についての報告がなされました。杉浦弁護士は、野田正彰氏の聞き取りによって、これまで認識されていなかったような被害が明らかになったことを報告しました。また、傍聴参加者から、法廷の感想などが語られました。

「法」は、ドイツ語ではRechtといいます。Rechtには、法という意味のほか、「正しいこと」「正義」といった意味もあります。法とは、正義を実現するためのもの、というニュアンスが込められているのです。4月27日の最高裁判決において、日中共同声明により個人の賠償請求権も放棄されているという判断がなされ、実際には勝訴がかなり難しくなってしまいました。しかし、裁判所においては、「どのような法解釈が正義に適うのか」ということを踏まえて、判断をしてほしいと思います。

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