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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

戦後補償裁判(46)―― 山形強制連行訴訟判決

T.O.記

2008年2月12日、山形地裁において、中国人強制連行・強制労働事件訴訟の判決が言い渡されました。原告らの請求を棄却するという不当な判決でした。以下、判決の内容を見ていきたいと思います。

まず事案の概要ですが、本件は、第二次世界大戦中に中国から日本に強制連行され、酒田陸海運送株式会社において強制労働させられた原告らが、企業と国を相手に、謝罪と損害賠償を求めて提起したものです(なお、事件の背景や争点については、戦後補償裁判(8)福岡強制連行訴訟一審判決をご覧ください)。

裁判所は、日本政府が政策として中国人労働者の移入を決定し実施したこと、被告会社が中国人労働者の申請を厚生省に行って彼らを受け入れたこと、そして被告会社の管理の下、劣悪な環境の中で労働に従事させられ、その間に暴行を受けたり、病気で死亡するものがいたりしたことを認定しました。また、原告ら一人一人についても、強制労働させられた事実や暴行を受けた事実、病気になっても治療を受けられなかった事実などを認定しました。そして、これらの行為が民法上の不法行為に当たると判断しました。

また、いわゆる「国家無答責」の法理について、戦前にそのような法理が採用されていた根拠は明らかではなく、国に対する損害賠償を求める法的手段が規定されていなかっただけにすぎないとも考えられるとして、現行法下においては正当性・合理性を見いだせないとしました。そして、当時の民法解釈によっても、国の不法行為に対して民法の不法行為法を適用して損害賠償を請求することが可能だとの判断を示しました。

被告国の安全配慮義務について、国が移入手続や使用条件などを取り決めて、それに基づいて中国人労働者の移入を行っていたことから、国は中国人労働者に対して安全配慮義務を負っていたとしました。そして先に認定したとおり、違法な強制連行・強制労働があったにもかかわらず、それらを是正していないことから、安全配慮義務違反があったと認めました。また裁判所は、被告企業の安全配慮義務及び義務違反についても認めました。
 
 しかし裁判所は、日中共同宣言における請求権放棄条項によって、原告らは裁判上の請求権を失ったと判断しました。日中共同声明では、中国国民個々人の賠償請求権には言及されていなかったのですが、裁判所は、サンフランシスコ講和条約で日本国民個人の賠償請求権が放棄されていること及び、日中共同声明がサンフランシスコ講和条約と同旨のものであるとの判断から、日中共同声明によって中国国民個々人の賠償請求権も放棄されているとしたのです。そのため、原告らの請求棄却という結論に至ったわけです。なお、この部分の判断は、2007年4月27日の最高裁判決と同旨のものです。

 なお、この最高裁判決においても、裁判上の請求権は否定されたものの、被害の実態や被告企業が利益を得ていることにかんがみて、関係者に対して問題の解決を図るよう勧告がなされています。また、ILO(国際労働機関)も第二次大戦中の強制連行・強制労働を強制労働禁止条約違反だと指摘し、日本政府に救済を勧告しています。それらを受けて、2008年2月7日、民主党の細川律夫衆議院議員が、「ILO専門家委員会報告に関する質問主意書」を提出し、ILOの勧告に対する政府の認識などを問うています。しかし政府は、「ILO専門家委員会は、条約の有権的な解釈を行う権限を有しておらず、また、その見解は加盟国を拘束するものではない」などと答弁し、この問題に対して真剣に向き合おうとはしていません。

 日本政府は、インド洋における自衛隊による外国艦船の給油活動について、国際的に求められているなどとして、衆議院の特別多数による再可決を強行してまで再開をしました。もし国際的に求められていることを根拠とするならば、同様に、戦時中に日本が行った違法行為に対する償いもまた国際的に求められているわけですから、早急に取り組むべきではないでしょうか。

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