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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

戦後補償裁判――(7)新潟地裁の強制連行訴訟判決

I.M.記

 2004年3月26日、新潟地裁は強制連行訴訟において、国と企業の責任を認める原告勝訴判決を言い渡しました。戦後補償裁判において、国と企業両者の責任を認めた判決は、これが初めてです。

 戦時中、国内の労働力不足を補うために経済界の要請を受けた国は、1942年の「華人労働者移入ニ関スル件」という閣議決定をふまえ、敗戦までの間に約39000人の中国人を国内に「移入」しました。最高齢は78歳、最年少は11歳とされています。そのなかには、現地の行政機関と日本軍が連携して行う強制徴収も少なくありませんでした。今回の訴訟の原告は、そうした意思に反して日本に連行され、強制労働に従事させられた人たちです。

 強制労働の実態については、ロージャーナル52号に被害者の証言を紹介していますので、ご参照ください。新潟では、太平洋側の港湾が空爆を受けることになり、荷揚げ量が増加し労働力が不足するようになりました。新潟港に「移入」された中国人は901人です。石炭、木材、食料の積み降ろしなどの港湾荷役作業に従事しましたが、食料も衣料も十分ではなく、中国人の159人が死亡しました。

 裁判では、不法行為と安全配慮義務が最大の焦点でした。判決は、原告の被害事実を丁寧に認定したうえで、次のように判示しました。

 まず、不法行為ですが、企業に対しては、「強制連行されてきた原告らを新潟港における港湾荷役業等の強制労働に一方的に従事させ(た)」として責任を認めました。国との関係では、判決は、国賠法施行以前の行為なので、公権力の行使には民法の適用がないという戦前の法理(国家無答責の法理)の扱いが問題になる点について、「行政裁判所が廃止され、公法関係及び私法関係の訴訟の全てが司法裁判所で審理されることとなった現行法下においては、合理性・正当性を見出し難い。また、国の公権力の行使が、人間性を無視するような方法(例えば、奴隷的扱い)で行われ、それによって損害が生じたような場合にまで、日本国憲法施行前、国家賠償法施行前の損害であるという一事をもって、国に対して民事責任を追及できないとする解釈・運用は、著しく正義・公平に反するものといわなければならない」として国家無答責を排斥しました。判決は、このように不法行為責任を認めましたが、ただし除斥期間の経過を理由に、不法行為に基づく原告の請求は棄却しました。

 次に、安全配慮義務ですが、判決は、企業と労働者の間には、労働契約に類似する法律関係があったとし、これに基づく特別の社会的接触の関係の存在から企業の義務を認めたうえで、強制労働の実態をふまえ、「義務違反は明らかである」としました。そして、企業の時効援用については、「被告会社が、悪質な態様で重大な被害を発生させた本件において消滅時効を援用することは、原告らによる権利行使・時効中断措置との関係においても、社会的に許容された限界を著しく逸脱するものである」と判示しました。また、国との関係でも、国と企業との間に中国人労働者移入・管理委任契約を媒介とした労働契約に類似する法律関係が存在したとし、これに基づく特別な社会的接触の関係の存在から国の義務を認めたうえで、「政策として本件強制連行・強制労働を実施し、……原告らの待遇を唯一是正させることができた被告国の立場からすれば」、国の義務違反は免れないとしました。そして、外務省報告書により実態を把握していたことなどに照らし、仮にも国による消滅時効の援用を認めることは「社会的に許容された限界を著しく逸脱するものである」と判示しました。

(法学館LawJournal2004年4月15日配信号より転載)

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