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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

社会保険庁職員国家公務員法違反事件(1)

T・O記

 2004年3月3日、警視庁公安部は、社会保険庁職員である堀越明男氏を、国家公務員法違反で逮捕し、3月6日に起訴しました。堀越氏が、国家公務員法102条、人事院規則14‐7違反したという理由からです。

 国家公務員法第102条1項は「職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない」と定め、同110条で違反者への処罰を定めています。また、人事院規則14‐7は、禁止される政治行為を詳細に定めており、国家公務員は、ほぼすべての政治活動を禁じられています。

 では堀越氏はどのような行為を行なったのでしょうか。堀越氏は、2003年の11月の衆議院総選挙の際、休日に、赤旗号外・東京民報号外を配布しました。この行為が、国家公務員法および人事院規則に違反するというわけです。

 しかし、憲法第21条1項は表現の自由を保障しています。表現の自由が、憲法が保障する自由の中でもとりわけ強く保障されることは、憲法学界での通説となっています。そして、ビラの配布は、表現の自由の行使の一形態であって、強く保障されるべき行為と考えられています。

 この表現の自由は、公務員であっても保障されると考えられます。もちろん、公務員であることに伴い、一定の制約はあります。しかし、制限に際しては、公務員の職務の性質や、政治的行為が職務の公正に及ぼす影響、制限を受ける行為の性質、その行為のなされた文脈などをきちんと考慮したうえで、必要最小限度の制約にとどまるべきだとするのが、憲法学界での共通した理解です。そのため、多くの憲法研究者から、国家公務員の政治的活動を全面的に禁止する国家公務員法・人事院規則は、憲法21条に違反するという指摘がなされています。

 かつて最高裁は、猿払事件において、国家公務員の政治的活動を全面的に規制する国家公務員法および人事院規則を合憲とし、休日に政党ポスターを掲示した郵便局職員に対する処罰を支持しました。しかしこの判決は、学説からの強い批判を浴びました。そうしたことから、猿払事件以来、33年に渡って、同法の適用による起訴はありませんでした。その意味で、本件起訴は、きわめて異例のものです。

 堀越氏は、休日にビラを配布したわけですから、社会保険庁の職務とは何ら関係がありません。ビラを配布している堀越氏を見て、彼が国家公務員であることに気がつく人は、ほとんどいないでしょう。それでは、警察はどのようにして、堀越氏を国家公務員と知ったのでしょうか。

 堀越事件については、これまで8回の公判が開かれましたが、その中で明らかになったのは、公安警察の違法とも言うべき捜査手法でした。当局は2003年4月から捜査を開始しましたが、その手法は、堀越氏のプライバシーを侵害するような手法で行われていました。たとえば、蕎麦屋での飲食、演劇を鑑賞したこと、購入した切符の額、買い物の中身などが、捜査報告書には記されていました。これらは、国家公務員法とはなんら関係のない行為です。

 また、ビデオ撮影も繰り返し行なわれていました。このビデオ撮影では、まったく関係のない市民の顔も撮影されていました。京都府学連事件で、最高裁は「何人も、その承認なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する。…警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない」と判示しています。堀越氏に対する撮影についてもその合法性に疑問がありますが、無関係の市民については、最高裁の判示に明確に違反する、違法な撮影ではないでしょうか。

 警察が、どのようにして堀越氏を国家公務員と知ったのかは、必ずしも明らかではありませんが、上記のような違法とも言うべき捜査手法によって知ったと思われます。

 この事件については、引き続きお伝えしていきたいと思います。なお次回の公判は5月10日午後1時半からです

 
 
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