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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

立川反戦ビラ入れ裁判で逆転判決ー立川反戦ビラ入れ裁判(2)

弁護団 山本志都(しづ)

★逆転有罪判決の言渡し
 昨年12月9日、能面のように無表情な、東京高裁第3刑事部中川裁判長の口から「原判決を破棄する」と言い渡された。「高裁は危ないよ」と、いろんな人から言われていた。しかし、逆転有罪という現実は重かった。
 この判決は、いわゆる「テント村事件」(立川反戦ビラ入れ裁判)に対するもの。
 立川市で反戦運動を行ってきた団体のメンバー3名が、自衛隊のイラク派兵に反対するビラ投函をした際に市内にある自衛隊官舎の敷地と階段に立ち入った行為が「住居侵入罪」にあたるとして、令状逮捕・起訴された。この間75日間の身体拘束も受けたが、2004年の12月、東京地裁八王子支部で無罪判決を得た。検察官控訴を受けた高裁の判断が下されたわけだ。
 その後に朗読された判決理由は、ごく短いもので、ビラ投函行為という表現の自由に対する配慮が全く感じられない内容であった。
 閉廷が宣言された後、傍聴席から、押さえきれずといった感じで声が出た。「裁判長はビラも撒いたことがないのか」、「裁判所は死んだな」。外部の「雑音」には全く興味がないという感じだった裁判長は、突然高い声で「黙りなさい。黙らないと拘束します。拘束しますよ」と叫んだ。
 刑事事件の裁判官に被告人や傍聴席に対する過度な配慮は必要ない。しかし、彼の過剰反応は、表現行為に対する彼の認識を示すもののように感じられた。

★表現の自由と本件の関係
 ビラの投函・配布は、それが商業的なものであれ、政治的なものであれ、他の手段には代替しえない簡便な意思表明・情報伝達手段であり、表現の自由の行使としてきわめて重要な地位をしめる。そして、自宅のポストにたくさんのビラが入っていることで分かるように、ビラ投函は日常的に行われている行為である。
 本件は、集合住宅のビラ投函に不可避的に伴う最小限度の立入行為が問題になっており、この行為を住居侵入罪で処罰することになれば、まさに集合住宅へのビラ投函=住居侵入という犯罪となってしまう。
 ビラ投函なんて迷惑だ。そう感じる人がいることもまた事実だ。しかし、それは、刑事罰をもって、国家が前面に出て取り締まらなければいけないことなのか。不愉快なこと全てを警察に取り締まってもらう。私たちはそういう社会に住みたいのか。
 歴史的な事実として、国家による取り締まりは恣意的に行われるものであり、また、それによって生じる萎縮的効果は、きわめて甚大なものがある。「逮捕されても、拘束されてもいい」、そんな強い覚悟をもった人しか、積極的な表現行為ができなくなってしまう。この事件のみならず、この前後に相次いだ表現行為に対する刑事弾圧事件をみると、そんな時代がもうすでにそこまで来ているように思う。
 控訴審判決は、そういう公安警察の動きにお墨付きを与えることになりかねない危険性を持っている。現実に、2005年12月20日、早稲田大学文学部構内でビラを配布し、建造物侵入容疑で逮捕された男性は、教員に現行犯逮捕された際に「立川の高裁判決を知っているだろう」と威圧的に言われた、と報じられている。

★控訴審判決の問題点
 控訴審判決の第1の問題点は、上に述べたような表現の自由の重大性が全く顧慮されていないことである。
 「ビラによる政治的意見の表明が言論の自由により保障されるとしても、これを投函するために、管理者の意思に反して、邸宅、建造物等に立ち入ってよいということにはならない」などとごく短く一般論を述べるだけで、最も重要な対立利益との調整原理を全く示さない。
 地裁判決は、被告人らの行為は、「憲法21条1項の保障する政治的表現活動の一態様であり、民主主義の根幹をなすものとして、同法22条1項により保障されると解される商業的宣伝ビラの投函に比して、いわゆる優越的地位が認められる」とした上で、「いきなり検挙して刑事責任を問うことは、憲法21条の趣旨に照らして疑問の余地なしとしない」と判示し、この裁判で問われた本質に言及したのとは、対照的な態度である。
 また、この判決の第2の問題は、住民たる自衛官やその家族の意思を排除した点にある。
 控訴審判決は、被告人らが立ち入った部分は「人の看守する邸宅」であるとし、構成要件該当性の判断においては、住民の意思を全く顧慮することなく、管理者(自衛隊幹部)の意思に反するかどうかだけを判断基準にした。また、違法性判断においても、管理者が居住者に注意喚起をしていたことを1つの理由として手段の相当性を欠くとし、居住者の意思は法益侵害の点で言及されたのみである。
 地裁判決が、法益侵害の程度を検討するに際して、「自衛官らの中にもイラク派兵に関して多様な意見を有する者がいる可能性は否定できない」と判示し、情報を受け取る自由に一定の考慮を示したのとは対照的である。
 さらに、控訴審は、事実認定についても、自衛隊官舎の開放性(なにしろ、児童・生徒が敷地内を通学路として使っているくらい、外に開かれた、門扉もなく管理員もいないような「団地」なのだ)など重要な部分に関して誤りがあるなどの問題点がある。

★舞台は最高裁へ
 被告人、弁護団は、判決を受けて直ちに上告した。その後、第2小法廷に係属することが決まった。今後、表現の自由について語る時、無視することのできない事件になるはずである。被告人も弁護団も意気軒昂(?)、上告趣意書作成の準備に取り組み始めている。
 最高裁に、裁判所の本来あるべき機能を果たさせるためには、多くの人に関心を持っていただくことがとても重要だと考えている。救援会のホームページには、事実経過や判決要旨、各種声明などが載せられている。興味を持たれた方はぜひご覧ください。http://www4.ocn.ne.jp/~tentmura

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