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憲法情報Now<憲法関連裁判情報>

 

女性自衛官人権訴訟

T・O記

2007年5月8日、北海道の女性自衛官が、男性自衛官からわいせつ行為を受け、加えて退職を強要されたなどとして、国に対し、1100万円余りの賠償を請求する訴訟を提起しました。以下、事件の内容を紹介します。

原告の女性自衛官は2004年3月に航空自衛隊に入隊し、2007年3月1日より、庶務部に配属され勤務していました。2006年9月9日午前2時半頃、訴外A3曹が原告を内線電話でボイラー室に呼び出しました。原告がボイラー室へ行くと、A3曹は酒に酔っており、原告に酒を飲ませたり、花火をさせるなどしました。午前4時半頃、A3曹は、原告をソファーベッドに押し倒し、強引に上衣を脱がせ、無理やりキスをしたり胸を触るなどの行為をしました。そして最終的には性交まで迫りました。その後、酔いや疲れで二人とも寝てしまいましたが、午前6時半の起床ラッパで目を覚まし、ボイラー室を出ました。その際、A3曹は、「また次の泊まりのときに呼ぶから、また相手してくれ」などと言いました。

A3曹の行為により、原告は体にあちこちに傷を負いました。9日午後の勤務の際、上司に相談しましたが、何らの救援措置も取られず、病院での受診も勧められませんでした。また、上司の許可を得て、職務時間中に同じ基地内に勤務している交際相手に相談しましたが、それが長時間に及んだことから、無断で勤務を離脱したとされ、懲戒の対象だと叱責されました。別の上司にも相談し、「A3曹を退職させるか、配置転換させてほしい」と訴えましたが、A3曹は今日に至るまで、何らの処分も配置転換も受けていません。

それどころか、原告に対する嫌がらせが行なわれるようになりました。上司から、原告が問題を起こしたことで監督責任を問われることをなじられたり、外出を禁じられたり、忘年会や新年会などの会合への参加も認められないなどの嫌がらせを受けました。

加えて、複数の上司から、「Aは男だ。お前は女だ。自衛隊がどっちを残すかと言ったら男だ」、「お前もう終了だよ」「自衛隊にいる存在が終了だって言ってんだよ」、「退職だよ。退職。お前終了だよ」、「お前、アホか。ここまでこじれたら、自衛隊ではやっていけないんだよ」などと、退職を迫られることもされました。そして有給休暇を取らざるを得ない状況に追い込まれました。

有給休暇に入るに際して、原告は上司から「休暇中に考える事項の参照」と題する文書を渡されました。そこには、任用継続と任期満了退職についてのメリットとデメリット、将来について、どのように生きたいのか、大学に行くかどうか、結婚をいつ頃するか、結婚後は仕事をするか、自衛隊の任用を継続する場合にA3曹との関係をどうするのか、などの項目があり、退職したほうが良いと原告に思わせる方向付けのなされた文書となっていました。さらに「退職願」も渡され、そこには退職希望年月日が鉛筆で「平成19年3月21日」と書かれていました。

原告は、上司らによる退職強要に、いったんは退職を覚悟しました。しかし、弁護士に相談したところ、部隊の対応に問題があると考え、退職しないことを決意しました。そしてその旨伝えるために部隊に行くと、上司らから「分かってるな。お前の印鑑持ってきているから」「退職願に押せよ」などと言われ、退職を強要されました。上司らによる退職強要などのストレスから、原告は体調を崩し、機能性胃腸症と診断されました。

こうした被害を受けたため、原告は、国に対し、損害賠償を請求する訴訟を提起したのです。しかし、この訴訟の目的は、損害賠償を得ることにあるわけではありません。原告が自衛官として職務を全うすると決意した以上、安心して働ける職場環境をつくることこそが、主たる目的となっています。

2007年5月9日の提訴にあわせて、弁護士や原告の父親が記者会見を開きました。そして父親が原告に代わって、以下の声明を読み上げました。

「本日、私は、自衛隊を相手とする国家賠償請求訴訟を起こしました。

最初に申し上げたいのですが、加害者には家族があります。今回の事件で、ご家族には何も非はありません。マスコミ関係者の皆様にお願いしたいのは、加害者の家族に迷惑をかけるような報道やインタビューは決して行なわないでほしいということです。私には、加害者のお子さんと同じ年の弟がおります。私はご家族のことを大変心配しております。ですから、ご家族に対する報道は控えるよう重ねてお願い申し上げます。

私の事件は、民主主義の国において、決して許されないことです。加害者、そして部隊の上司が私に行なった数々の行為は、私の人権や女性としての尊厳を著しく踏みにじるものでした。

私は、現在21歳です。現職のまま裁判でたたかうことを決意しました。現職で裁判を行なうことがどれだけ難しく、又、どれだけ大変かは理解しているつもりです。私は加害者や上司を許すことができませんでした。被害者に対する陰湿な嫌がらせや、退職に追い込み、被害者が泣き寝入りする現状があってはなりません。私は現職のままたたかい、そして勝ちたいと思います。裁判所には、公平な裁判をお願いします。自衛隊には、事実を確認して、一刻も早く私の働く環境を整備することを強く要望します。

今回、国家賠償請求という裁判を起こすまで大変な苦労をしました。父や北海道合同法律事務所の佐藤弁護士のサポートがあり、裁判を起こすことができました。大変感謝しております。

私は、通信制大学に通っています。事件後約8ヶ月の間、上司に陰湿な嫌がらせを受け、通信制大学に通わせないと脅されたり、一人孤立させられたりしましたが、つらくなったりした時には勉学に励みました。「働きながら学ぶという尊さ 働きながら通教生としての奮闘 働きながら大学生としての勉学 これほど美しく これほどすばらしき人生はない」 これは、大学の月刊誌の表紙に書いてあった言葉ですが、この言葉に励まされました。

私は、私の人権と女性としての尊厳を取り戻すため、国とたたかいたいと思います。
3年前、自衛隊に入隊したころ、私は自衛隊に対する大きな期待と夢を持っていました。
今でも私は自衛隊に期待をしております。それは、今後自衛隊が社会常識が通用する普通の組織となり、女性が安心して働ける職場になれるかどうかにかかっていると思います。
最後に、私が立ち上がることで、同じ体験をされた方に勇気と希望を与えることができればと思います。
本日は、お忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございました。」

この事件に象徴されるように、自衛隊ないし軍は、本質的に人権意識が低いところです(人権意識が高ければ、相手兵士を殺傷することが困難になります)。そうした意味で、本件は、「自衛官セクハラ訴訟」などと報じられていますが、セクハラのみならず、女性差別、退職強要などの是非、つまり自衛隊の人権意識が問われる訴訟であり、「人権訴訟」と呼ぶべきでしょう(なお、提訴翌日の5月9日、出勤した原告に対し、上司は、「部隊の業務を滞らせている」として、庁舎内で「奥」とか「倉庫」と呼ばれる、6畳ほどの何もない部屋で勤務するよう命じたそうです。これもまた、自衛隊の人権意識の低さを表していると思います)。また、あわせて、こうした低い人権意識しか持たない自衛隊が、「人道復興支援」などとして海外に派遣されていることのおかしさも問われるべきではないかと思います。実際、原告代理人弁護士によれば、原告は、このような自衛隊を海外に出したら大変なことになる、と言っているそうです。

当研究所では、今後もこの訴訟を注視していきたいと思います。

 

 
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