2019年4月16日、「東京新聞」(朝刊)が「桜を見る会」の予算が大幅に増えていることを報じました。この報道に目を留めた宮本徹議員(共産)が招待者数や招待基準などを示す関係資料を内閣府に請求。同年5月9日のことです。この請求は結局応じられないまま衆院決算行政監視委員会が実施されました。そして、同日、つまり5月9日に名簿が破棄されたことが明らかになったのは、半年後の11月14日でした。
以上のとおり、以前から問題意識をもった人々が一部いた「桜を見る会」について、これがにわかに注目の的になった契機は、2019年11月8日、参議院予算委員会で田村智子議員(共産)が行った安倍晋三首相に対する実証的な資料や取材に基づく追及でした。本書は、いまだ解決の目途のたたないこの問題に関し、問題発覚から2019年12月26日の最後の野党による政府ヒアリングまでの49日間を追った、毎日新聞の記者たちによる詳細な記録です。
毎日新聞記者たちの「桜を見る会」取材班発足から本書は始まります。そして、「桜を見る会」において何が起きたのか、そもそも安倍首相や首相の支持者たちの言動の何が本質的な問題であるのかを丁寧に整理し、事の顛末を時系列に沿って詳細に明かしています。その中に、記者たちが取材の過程で得た証言、あるいは会見の場で目の当たりにした光景が記録されています。インターネット上の記事だけからは決して知りえない生々しさがあり、問題の深刻さを読者は再認識することができます。
本書で特徴的なのは、SNS(ツイッターなど)を通じた一般市民の数多くの声が適宜参照されている点です。SNS上ではマスコミの活動、政府との攻防を支持する人々もいれば、記者たちを強く非難する人々もおり、いずれにせよ「桜を見る会」の追及にあたって強い影響力を与えていることがわかります。本書の毎日新聞の記者たちも、時にはSNS上の市民の声に後押しされ取材が飛躍的に前進したり、あるいは落胆したりもします。そもそも上述の田村議員の質疑も国会議員のネット上のブログやツイッターなどを利用し、説得的に問題の所在を明らかにするものでした。「政府の行為」を監視し、問題を追及するにあたり、SNSの存在は無視できないものとなっているのです。
明細書のない前夜祭、関係書類の不自然な破棄、説明責任の不在。いずれの問題も全く解決していません。本書において「いつまで『桜』をやっているんだ」、「もう飽きた」、「ほかにも議論すべき大事なことがある」という類の、主にSNSを中心とした声もまた目立つことが紹介されています。しかし、「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」(公文書管理法第1条)として位置づけられる公文書を適切に開示せず、税金で「桜を見る会」が開催されることから税金や行政の「私物化」が疑われる政権に、いかなる政策においてもその執行を委ねることはできないのではないのでしょうか。関係資料の無責任な破棄、説明責任の不在、論点ずらし、いずれも私たち国民にとっては既視感のあるものです。本書は「桜を見る会」をめぐる問題のみならず、現前する政府の根源的な問題を読者に自覚させる一冊であると言えます。
目次
第1章 疑惑が生まれた日
第2章 税金と国家の私物化
第3章 消えた明細書
第4章 記者VS安倍官邸
第5章 消された名簿と黒い友達関係
第6章 終わりの始まり
【書籍情報】2020年2月、毎日新聞出版。毎日新聞「桜を見る会」取材班。定価は1200円+税。