「ご飯論法」。2018年の新語・流行語大賞トップテンに選出された言葉です。「朝ごはんは食べなかったのですか?」という問いに対し、「ご飯は食べませんでした(白米ではなくパンは食べたけれども、それは黙っておく)」と「応答」する、不誠実な論点ずらしの手法です。この言葉は国会での各種答弁を批判的に形容して生まれました。本書は、受賞者のひとりである著者が、国会で起きている問題について広く市民で共有する必要があるとの想いから立ち上げた、「国会パブリックビューイング」という試みの歩みと問題意識を記録した一冊となっています。
「国会パブリックビューイング」とは国会審議の街頭上映です。ツイッターで事前に開催時間と場所を告知し、プロジェクターとスクリーンのみを設置して、あえて主催者らが目立って表には出てこない等の特徴があります。本書の言葉遣いに従えば、国会を可視化し、「国会の中と外をつなぐ」(41頁)試みです(2018年に開始)。
「記録」とはいえ、単に当該活動の経緯が時系列的に記されているわけではありません。そもそもなぜこのような活動が必要であるのか、どのような効果が期待されているのかについてもきちんと触れられています。たとえば、上記の「論点ずらし」に該当する具体的な国会議員のやりとりを挙げながら、「働き方改革関連法案」等の国会審議の過程において生じた問題の本質的な部分はどこにあるか、何が隠蔽されたか等が判りやすく解説されています。政治的な「力」で断行される諸政策を目の当たりしながら、これに抗する効果的な術が現状のメディアや運動には見出せないこと等が、「国会パブリックビューイング」開催の背景にあるのです。
現政権を批判する言説に対し、「そうはいっても野党が役に立たない」、「野党は反対ばかりだ」といった、野党の姿勢や質疑内容を頭から非難する声も少なくありません。しかしながら、国会に関心を寄せ、国会議員の質疑応答を注意深く観察すると、安倍政権の論点ずらしや国会軽視が際立っていること、野党議員はそれぞれの持ち味を活かしながら懸命に与党に追及を行っていることがわかります。本書はそのことを実証的に、そして分かりやすく提示しています。インターネットの情報や各種メディアの言説も大事ですが、それで「分かったつもり」に陥らず、まずはその大本となる国会での質疑応答を丁寧に見直し、自分で考えてみる必要がある。本書はこうした基本的な事柄を実践的に説き、多くの市民を政治的に目覚めさせてくれる一冊です。
目次
はじめに
第一章 国会で起きていること
第二章 活動の立ちあげと展開
第三章 映像がもたらしたもの
第四章 進行中の国会審議を取りあげる
第五章 野党議員による質疑の役割
第六章 路上という公共の政治空間
第七章 臨機応変な番外編
第八章 小さなメディアが開いた可能性
あとがき
註
国会をみるための参考資料
国会パブリックビューイングの主な活動記録
【書籍情報】2020年2月、集英社。著者は上西充子。定価は1600円+税。
【関連HP:今週の一言・書籍・論文】
今週の一言『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』
上西充子さん(法政大学キャリアデザイン学部教授)