新型コロナ感染拡大の世界規模の大混乱のなか、2020年8月28日、突如として安倍晋三氏は首相の座から退陣しました。「体調不良」を前面に押し出し、新型コロナ対策という喫緊の課題は言うまでもなく、「モリカケ問題」や「桜を見る会」の問題等に対してその説明責任は果たされず、一切の終局をみないままに政治の舞台から姿を消しました。
本書の著者は「安倍さんの辞任は本当に残念」とし、続けてその理由を「『こうすれば安倍路線に反対する多数派がつくれるのだ』という実体験を持てないまま終わった」と述べています(「まえがき」参照)。安倍氏の新型コロナ感染拡大対策については、少なくない国民が不信感を抱き、そのような意味では安倍政権が「追い詰められた」とも評されます。しかし、「野党が追い詰めた結果」とは決して言えず、「倒した」という評価は論外です。
以上の問題意識に従い、本書は野党共闘が成功する道筋について探っています。その考察の視角として、本書はまず「安倍首相的な政治というのは、安倍氏個人の属性によって誕生したものではない」という前提をとり、「冷戦」が終結した1990年代の世界政治・経済の大変化からその背景を紐解いていきます。「冷戦」後の日本における安全保障の在り方、選挙制度変更に伴う新たな政治環境が政党や政治家に与えた影響、歴史観の問題等を取り上げ、これらの現象が安倍氏の長期政権を下支えたことを明らかにします(第一章)。そして、安倍氏が実際に上述の変化にいかにして対応したか、すなわち国内外に向けてどのような姿勢で政治、安全保障政策、そして経済政策等に臨んだのか(あるいは、臨まなかったのか)を分析し、その意義と限界について触れています。最後に、民主党政権時代に欠落していたもの、当時の野党の「失敗」を「成功」に変えるために不可欠な要素を具体的に挙げ、そして野党共闘の現政権への挑戦に対する期待を述べて本書を閉じています。
筆者も述べるように、本当に野党共闘の末、安倍政権を「倒した」のであれば次の首相に菅義偉氏が選出されるという事態は生じなかったでしょう。野党共闘に必要なのは本書において考察され提言されていることの他、私たち国民が常に政治を注視し、言論活動や選挙に積極的に参与することもまた言うまでもなく重要です。「そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。」(憲法前文)という先人が獲得した普遍的価値の真価が問われているといえます。エンジンのかかったばかりの現政権について再考するにあたり、本書は必読の一冊といえるでしょう。
まえがき 安倍氏の選択は他の保守政治家を超えた
第一章 安倍氏が登場した90年代初頭の構造変化とその意味
第二章 安倍氏は変化にどう対応したか―第一次政権の失敗を受け止めて
第三章 野党共闘が政権の選択肢になる条件
あとがき
【書籍情報】2020年10月、かもがわ出版。著者は松竹伸幸。定価は1200円+税。
【関連HP:今週の一言・憲法関連論文・書籍情報】
書籍『忘れない、許さない!安倍政権の事件・疑惑総決算とその終焉』
今週の一言『いまこそ 野党連合政権を! ~真実とやさしさ、そして希望の政治を』