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憲法関連書籍・文献紹介
書籍『学問の自由が危ない―日本学術会議問題の深層』
T. M

 2020年10月1日、菅義偉首相が日本学術会議の会員につき、推薦名簿に載せられた105人のうち6人を任命拒否するという事件が起きました。本件は国内外で大きく報じられ、日本学界のみならず国際社会を震撼させました。日本国内では専門横断的に、数多くの学会、大学・研究機関、諸団体が声明や抗議文を公表したものの、政府は一切の責任説明を果たしていないのが現状です。本書は、「踏み越えてはならない一線を越え、やってはならない違法行為に手を出した」(14頁)、「身震いするほどの驚愕の事件」(33頁)と評される当該問題について、「この衝撃的な出来事を多角的に照らし出し、その深層を解明する趣旨で編集され」、その「決定版として編集され緊急出版された」ものです(「はじめに」参照)。
 当該事件は、端的に憲法や法律が保護する学問上の自律や自由、より広義に言えば、国家権力をコントロールするという憲法の本質的機能に破壊的なダメージを与える、社会の根幹を揺るがす事件であったと言っても過言ではありません。しばしば指摘されるように、日本国憲法は、「思想良心の自由」、「表現の自由」とは別に「学問の自由」を規定しています。これは、言わずもがな、学問が政治権力によって脅かされ、人々や社会の進歩、幸福のためではなく戦争へと動員され、これを止めることができなかったという事実に裏打ちされています。この歴史を踏まえて、真理を探究する学術共同体の自律性を保障することを一つの目的とし、ある種特別に、「学問の自由」(および研究の基盤となる大学の自治)が憲法に規定されました。そして、政治から「学問の自由」を守り、戦争による「学術動員」を許さない拠点として、日本学術会議は設立されたのです。
 本書は、それぞれ専門や分野を異にする合計13名の執筆者の論考によって構成されています。その多くが日本学術会議の会員を経験した(あるいは現職の)立場にある者で、各自の専門に従って、この度の問題の本質を抽出しています。上記で言及したような憲法および法律(とくに日本学術会議法)の次元におけるその問題性、ジェンダー平等の観点、現在の政権担当者らが人事に干渉するに至った根本的な原因の読み解き、あるいは、より広く、学術共同体の在り方やこれが引き受けるべき責務、その欠如がもたらす効果などについて論じられています。
 残念ながら、「任命拒否事件」への関心はとくに若者の間では低く、本書で繰り返し強調される本質的かつ決定的な問題点は等閑に付されるか、あるいは拡散された「フェイクニュース」を鵜呑みにし、日本学術会議そのものを否定的に捉える言説が流布しています。新型コロナウィルス感染拡大という世界規模の危機においては、文字通り国境を越えて、あらゆる科学的知見を集結させること、そして研究者と市民とが協働することが一層求められています。その意味で、日本学術会議の役割はますます重要になっているはずです。日本学術会議法は前文の中で「…わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と連携して学術の進歩に寄与すること」をその使命としています。「学問の自由」とは何か、そして日本学術会議の果たして来た/これから果たすべき使命や役割は何か、さらには私たちがこの問題にどのように向き合うべきか。これを再考することの重要性と緊急性を、本書は提示しています。

目次
はじめに
1 学術総動員体制への布石(上野千鶴子)
2 日本学術会議における「学問の自由」とその危機(佐藤学)
3 政府が学問の世界に介入してきた(長谷部恭男×杉田敦)
4 任命拒否の違法性・違憲性と日本学術会議の立場(髙山佳奈子)
5 学問の自律と憲法(木村草太)
6 日本学術会議とジェンダー平等(後藤弘子)
7 日本学術会議と軍事研究(池内了)
8 酔生夢死の国で(内田樹)
9 学術会議だけの問題ではない(三島憲一)
10 「学問の自由」どころか「学問」そのものの否定だ(永田和宏)
11 文化的適応としての科学と日本学術会議(鷲谷いづみ)
12 1000を超える学協会の抗議声明から読み取れること(津田大介)
資料編
任命拒否を受けた6人のメッセージ(芦名定道、宇野重規、岡田正則、小澤隆一、加藤陽子、松宮孝明)
公表された声明文から(法政大学総長、日本ペンクラブ、現代歌人協会・日本歌人クラブ、映画人有志)
第25期新規会員任命に関する要望書
日本学術会議法
声明を公表した学協会一覧
日本学術会議問題 日録

あとがき(上野千鶴子、内田樹)

 

【書籍情報】2021年1月、晶文社。編者は佐藤学・上野千鶴子・内田樹。定価は1700円+税。



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