3月7日、第五福竜丸元乗組員の大石又七さんが87歳で亡くなりました。大石さんは700回以上の講演を行い、中学生たちに第五福竜丸事件の記憶を語り、核廃絶を訴え続けられました。
1954年3月1日、マーシャル諸島のビキニ環礁において、米国が水爆実験を行いました。その爆発力は、広島型原爆の1,000倍を超え、きのこ雲は35キロメートルの上空まで昇り、大量の放射能が、潮流に乗って太平洋を広く汚染し、気流によって北極まで運ばれ、また放射能雨となって日本全土を含む広範囲に降り注ぎました。マーシャル諸島の住民が被曝し、ビキニ環礁の近く(米軍が定めた危険区域の外の公海)で延縄漁をしていた遠洋マグロ漁船の第五福竜丸も死の灰を浴びました。23人の乗組員は、死の灰にまみれ、放射能病に耐えながら、2週間かかって静岡県焼津港に帰港します。彼らが水爆の生き証人として自らの体験を語り、その年の9月23日、久保山愛吉(無線長)が「原水爆の被害者は私を最後にしてほしい」と言って亡くなったことは、いまの世界的な原水爆禁止の運動につながっています。
この絵本は、米国の国民的な画家ベン・シャーンが久保山愛吉を主人公にして描いたLucky Dragon Seriesの連作を元に、詩人アーサー・ビナードが構成や文を考えてまとめられたもので、力強い絵と洗練された言葉が反原水爆を訴えます。
「ここが家だ」というタイトルは、地球のあらゆる場所が人だけでなく多様な生物の生活の場であり、汚染してよい場所はないということだと思われますが、子どもから大人まで多くのことを考えさせてくれる一冊です。
今年1月核兵器禁止条約が発効し、「核兵器のない世界への重要な一歩」を踏み出しましたが、条約には核保有国や核抑止力に依存する日本などは参加しておらず、この絵本の問いかける問題は今も人類の重要課題となっています。
将来世代を担う子どもたちに忘れてはならない事件を伝え、核問題を考えるきっかけに読んでみてはいかがでしょうか。
【書籍情報】2006年9月、集英社。絵 ベン・シャーン、構成・文 アーサー・ビナード。定価1,600円+税。