グローバル化は憲法学に対して何をもたらすのか?
本書は、「グローバル化…という現象が、憲法学に対して何をもたらすのか、そしてそれを憲法学はどのように受け止め、考えていくべきなのかについての検討を試みようとするもの」(はじめにⅰ)です。
すなわち、「総論・人権・統治という憲法学全般にわたるトピックを…取り上げ、…原則として(1)教科書等で学ぶ憲法の基本知識を確認しつつ、(2)それがグローバル化によってどのように影響を受けているのか、(3)そしてそれを憲法学としてどのように考えるのかについて論じ」られています(はじめにⅵ)。
第I部では立憲主義、民主主義、多文化主義等が、第II部では平等、信教の自由、表現の自由、刑事手続等が取り上げられています。さらに、第III部では選挙権、違憲審査制等が、グローバル化との関係で論じられています。
1988年当時の問題が現在でもなお存在する
これまで、グローバル化を正面から主題化した議論はあまりなされてきませんでしたが、そのなかでも「多くの論争誘発的な議論を展開してきた」のが山元一教授であり、本書は山元教授の還暦をお祝いするために企画されたものだそうです(はじめにⅵ)。
山元教授は、2021年12月より、国際人権法学会の理事長に就かれています。
国際人権法学会は1988年に創立されました。初代理事長は芦部信喜氏で、その当時のわが国の抱える人権問題として、国際人権規約や女子差別撤廃条約など人権諸条約の国内実施状況、定住外国人問題、被拘禁者の人権問題、子どもの人権、難民の問題などがあることを指摘しています(「芦部信喜氏(国際人権法学会理事長)に聞く」法学セミナー442(1990年2月)号3頁)。
これらの問題に対しては、現在でもなお各種の問題点が存在することは、周知のことと思います。
十分な議論と理解がなされていない? 日本国憲法における国際協調主義
日本国憲法は国際協調主義(国際協和)を謳っていますが、国内の人権保障において国際人権を考慮すべきか否か、どのように考慮すべきかについては、必ずしも十分な議論と理解がなされているとはいえない状況にあります。
このような問題意識のもとに、「日本国憲法と国際的な人権保障をめぐる諸問題」を特集として組んだのが、法学館憲法研究所 Law Journal 第25号(2021年12月発行)です。
Webサイトより各論稿を読むことができますので、ぜひご一読ください。
目次
第I部 総論
I-1 グローバル立憲主義?〔横大道聡〕
I-2 グローバル化と民主主義〔新井 誠〕
I-3 コスモポリタニズム〔菅原 真〕
I-4 グローバル化と多文化主義〔河北洋介〕
I-5 グローバル化時代の主権〔南野 森〕
I-6 岐路に立つ環境法〔イザベル・ジロドゥ(田中美里訳)〕
I-7 反グローバリズムの病理と生理〔岡田順太〕
I-8 日本憲法学におけるグローバリズム〔シモン・サルブラン〕
第II部 人権保障
II-1 国際的な人権保障システム〔江島晶子〕
II-2 トランスナショナル人権法源論〔橋爪英輔〕
II-3 家族内の平等と家族間の平等〔西山千絵〕
II-4 宗教の多様化と信教の自由〔中島 宏〕
II-5 グローバル化と表現の自由〔曽我部真裕〕
II-6 グローバル化市場における人権保護〔大野悠介〕
II-7 刑事手続・弁護権とグローバル化〔金塚彩乃〕
II-8 グローバル目線で考える「健康権」〔河嶋春菜〕
第III部 統治
III-1 選挙権と国籍・受刑者〔只野雅人〕
III-2 グローバル化時代における国内議会の役割と可能性〔徳永貴志〕
III-3 NGOと政策形成〔小川有希子〕
III-4 違憲審査制とグローバル化〔池田晴奈〕
III-5 違憲審査の手法(違憲審査基準・比例原則)〔小島慎司〕
III-6 国境を越える地方公共団体〔堀口悟郎〕
III-7 緊急事態と非常事態〔奥村公輔〕
【書籍情報】2021年12月、弘文堂。
編者は横大道 聡(慶應義塾大学大学院法務研究科教授)、新井 誠(広島大学大学院人間社会科学研究科教授)、菅原 真(南山大学法学部教授)、堀口悟郎(岡山大学大学院社会文化科学研究科・法学部准教授)。定価は4,510円(本体価格4,100円)。