日本国憲法は2022年5月3日、一度も改正されることなく施行75周年を迎えました。日本国憲法同様、第二次世界大戦の悲劇を二度と繰り返さないという反省から生まれ、70年以上「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」とされつづけているものがあります。1948年に第3回の国連総会で採択された世界人権宣言です。
残念ながら、この間も戦争や暴力、迫害は世界各地で繰り返されてきました。迫害、紛争、暴力、人権侵害などで故郷を追われた人の数は、2020年時点で全世界人口の約1%(国連UNHCR協会)。現在も増え続けています。基本的人権が比較的多く保障されている日本でも差別をはじめ、様々な人権侵害が指摘されています。現実との乖離は大きいですが、世界人権宣言は時代遅れであるから見直そうという声は聞いたことがありません。
国際社会は、世界人権宣言で謳われる権利保障の実効性を高めるため、自由権規約や社会権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約など、法的拘束力のある約30の国際条約を制定してきました。今後もこの方向性は変わらないでしょう。
世界中の多くの人々が、世界人権宣言は、すべての人間が生まれながらに基本的人権を持っているということを認めた宣言であり、人権の歴史で重要であることは知っていると思いますが、すべての条文を読み、内容を理解している人はそれほど多くないのではないでしょうか。
本書は30条からなる世界人権宣言を「イメージが呼び覚ます力に満ちたイラスト」を手がかりに読みなおすことができる作品で、現代アーティスト32名が条文を視覚的に表現しています。2016年にシェーヌ社からフランス語で出版され、2018年に日本語訳が出版されました。英語訳を加え、3言語版として出版されたのが今回ご紹介する書籍です。英語訳は国際基督教大学の学生が、世界人権宣言について考えるきっかけとなる題材を提供することを目的としたプロジェクトとして作成しています。
現在主張されている憲法改正の議論を踏まえて、日本国憲法と比較しながら読んでみると新たな発見があるかもしれません。
また、世界平和を実現するために世界各国が協力して人権を守る努力をすべきという認識から生まれたのが世界人権宣言です。この宣言に謳われている基本的人権が保障されるならば、ロシアは侵攻の口実を失い、またウクライナが戦争を続ける意味もありません。いまいちど原点に立ち返って世界平和のあり方を考えてみてはいかがでしょうか。
【書籍情報】2022年4月、創元社。英語訳:国際基督教大学、日本語訳:遠藤 ゆかり(フランス文学)。定価は2,475円(本体価格2,250円)。