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憲法関連書籍・文献紹介
書籍『憲法のリテラシー 問いから始める15のレッスン』
S.K



憲法を広い視野で客観的に考察する
 憲法とは何かと問われれば、日本国憲法をイメージし、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を内容とする法であると答える人が多いのではないのでしょうか。私たちは国家が憲法典を持ち、憲法違反の事態は裁判所の違憲審査によって是正されるのが当たり前のように感じていますが、世界の憲法を見てみると必ずしも自明でないことに気づかされます。
 本書は、高校の教科書にも、大学生が手にする憲法のテキストにもほとんど書かれていない、憲法を広い視野で客観的に考察するための非常にプリミティブな問いに対し、憲法学者がしっかりと掘り下げて解説し、憲法を主体的に考える際の新しい視点や知識を提供してくれます。

本書で取り上げられているテーマについて
 第1部の総論では、憲法の概念や分類論を学ぶ意義はどこにあるのか。昨今、高校までの憲法教育で注目されるようになった立憲主義と日本国憲法の関係はどのように捉えたらよいのか。なぜ成文憲法を制定するのか。憲法はどのように制定すべきか。憲法典には何をどのように書き込むか。日本国憲法が驚異的に短いことの意味などについて、世界レベルで興隆している比較憲法学に依拠し、実証的、統計的な手法を用いながら多様な国の実践も踏まえて解説されています。
 第2部の統治では、まず、近代立憲主義の核心ともいえる権力分立の原理について、その代表的論者であるモンテスキューの権力分立論と、それをもとに実際の統治制度の設計を試みたアメリカの政憲者たちの議論に立ち戻って、「権力集中による自由の侵害を防ぐ」という本質を考察しています。 それを踏まえ、どのような執政制度が望ましいのか、「代表民主制」は普遍的な制度なのか。「民主的」に「代表」を選ぶための選挙方法、違憲審査制をどう捉え、どのようにデザインするかなど、多様に構想できる具体的な統治制度の在り方が提示されています。
 第3部の人権では、まず、人権を憲法で保障しない国が、なぜそのような立場を採っているのかを検討することを通じて、人権を憲法で保障することの意味を考えます。そして、何を人権として保障するのかでは、「人権の歴史的展開という縦軸」と「人権規定の国際比較という横軸」から各国の憲法典を分析し、日本国憲法の現在地を明らかにします。さらに憲法は国際人権とどのように向き合うのか。人権の制約が正当化される基準としてグローバル・モデルとなっている比例原則とアメリカの違憲審査基準の異同や日本の状況などについて論じられています。

緊急事態条項
 昨今、憲法改正で注目される「緊急事態条項のデザイン」については、諸外国の動向を概観し、「緊急事態」の名を借りた権限濫用や過度の人権制限が生じないようにするための様々な制度的工夫について論じ、「法律レベルで様々な緊急事態への対処が定められていることを理由に緊急事態条項は必要ないと評したり、人権の制限も『公共の福祉』の解釈で対応できることを理由に憲法に特段の定めを追加する必要はない」とするエリート・プラグマティズムに疑問を呈しています。

法教育の現状と課題
 インタールード(間奏)では、市民の憲法意識や憲法認識を形成する上で、少なからぬ影響を与えてきた中等教育における「憲法教育」「人権教育」「主権者教育」の現状と課題を吉田先生が分析されており、こちらも興味深い内容となっています。
 2016年の調査で、立憲主義について「詳しく習った」「習った」との回答が全体の88%に達していたにもかかわらず、「憲法の名宛人は何(誰)か」を問う質問については、実に90%を超える学生が「国民こそが率先して憲法を守らなければならない」と回答し、その理由としては「憲法が最高法規であるから当然に国民は憲法に従わなくてはならない」「国会議員や総理大臣,国務大臣,国民のいずれにしても,同じ国民なのだから憲法に従わなくてはならない」という趣旨の回答が多く寄せられたそうです。

 本書は、出版社のHPに書かれているように、「法学教室」における連載「探検する憲法―問いから始める道案内(1)~(24)」をベースに、連載時の読者にも新しい発見を提供できるよう、大きく内容を再構成されています。非常に読み応えのあるお薦めの一冊です。

目次
第1部 総論
第1章 憲法とは何か/第2章 なぜ憲法典を制定するのか/第3章 どのように憲法を制定するべきか/第4章 どのような憲法典を作るのか/第5章 どうやって憲法を変えるのか/インタールード(1) 憲法をどう教えるのか
第2部 統治
第6章 権力分立とは何か/第7章 どのような執政制度にするのか/第8章 どこまで国民は統治に関わるのか/第9章 どのように憲法を守るのか/第10章 いかにして緊急事態に備えるのか/インタールード(2) どのように主権者を育てるのか
第3部 人権
第11章 なぜ人権を憲法で保障するのか/第12章 何を人権として保障するのか/第13章 憲法は国際人権とどのように向き合うのか/第14章 いつ人権の制約は正当化されるのか/第15章 憲法の保障は憲法の敵にも及ぶのか/インタールード(3) 人権をどう教えるのか

【書籍情報】2022年5月、有斐閣。著者は横大道 聡(慶應義塾大学大学院法務研究科教授)、吉田俊弘(大正大学名誉教授)。定価は2,970円(本体価格2,700円)。

 

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