法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

浦部法穂の憲法時評

 

「ミサイル」狂騒曲


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2009年4月20日

 まるで「戦争前夜」のごとき異様な騒ぎ方であった。政府もマスコミも、いまにも日本に対してミサイル攻撃が行われる、といわんばかりに騒ぎ立てた。「誤報」という恥さらしな「おまけ」まで付けて。4月5日の北朝鮮による「ミサイル発射」騒動である。
 北朝鮮は、事前に、4月4日から8日の間に人工衛星の打ち上げを行う旨国際機関に通知していた。そして、5日には、衛星打ち上げに成功し軌道に乗ったと発表、数日後には打ち上げ時の映像を公開した。そこに映し出されていたのは、たしかに3段ロケットであり先端には衛星のような丸い物体が搭載されていた。しかし、アメリカとロシアは、いかなる物体も軌道には進入していないとして、衛星打ち上げ成功という北朝鮮の発表を否定した。したがって、4月5日に「発射」されたのが本当に人工衛星だったのかどうかはわからない。人工衛星もミサイルも、ロケットを推進装置に使うという点では変わりはないから、かりに人工衛星の打ち上げだったとしても、その技術は容易にミサイル開発に転用できる。その意味で、核開発を進める北朝鮮が長距離ミサイルの技術をも手にすることに、国際社会が警戒心を強めることは、当然といえば当然である。
 それにしても、である。日本の騒ぎ方は尋常ではなかった。政府もマスコミも、ハナから「ミサイルの発射」と決めつけ、たとえばNHKの報道などは、一貫して「北朝鮮が人工衛星の打ち上げと称してミサイルを発射しようとしている」というトーンであった。韓国が、人工衛星かミサイルかということに関しては中立的に、「ロケットの発射」という言い方をしていたのと対照的である。しかも、その「ミサイル」が日本を狙って発射されるかのように、政府は早々と「迎撃」体制をとり「破壊措置命令」を発した。迎撃ミサイルを搭載したイージス艦を日本海に2隻、太平洋に1隻、地上配備型迎撃ミサイルPAC3を秋田・岩手両県と東京(市ヶ谷)に配備したのである。完全な「戦闘態勢」であった。
 日本の上空を通過するから万一の失敗・事故に備えて、というのが名目であったが、ならばなぜ、東京にまで迎撃ミサイルを配備する必要があったのか。東京の上空を通過するわけでもなかったのに、である。それに、上空を通過するといっても、はるか大気圏外のことである。万一落ちてきたら、といっても、大気圏外の上空からふらふら落ちてくる物体を「迎撃」することなど、至難の業であろう。この「戦闘態勢」は、いったい何であったのだろうか。日本へのミサイル攻撃という、およそ考えられない事態を想定していたのか、あるいは、これを絶好の機会としてミサイル防衛システムの実戦訓練を行おうとしたのか。そして、何事もなく終わったあと、全然無関係の地域での「県下では目立った混乱はありませんでした」という報道にいたっては、まさに噴飯ものであった。
 もし、北朝鮮のミサイルの脅威をいうのであれば、少なくとも日本にとっては、今回の「発射」は、「万一の失敗・事故」以外には新たな「脅威」をもたらすものであったわけではない。なぜなら、北朝鮮は、すでに、日本を射程に収める中距離ミサイルを持っており実戦配備済みだといわれているからである。その意味で、今回の「発射」について、日本がとくに突出して大騒ぎしなければならない必然性はないのである。北朝鮮が長距離ミサイルをもつことになれば、アメリカ本土へのミサイル攻撃が可能になるという意味で、アメリカにとっては直接的な「脅威」となろう。そのアメリカでさえ、今回の「発射」をアメリカに対する直接の脅威とはみなさないと表明しているのだから、日本の騒ぎ方は異常としかいいようがない。
 安保理の協議でも、アメリカは「国連決議に合致しない」という表現での声明案を提案したが、日本は「国連決議違反」と明記することを主張するなど、日本の強硬さは突出している。また、韓国は、自分から強硬な態度を表明するのでなく、日本に言わせてそれへの支持を表明するにとどめるという、したたかな外交戦略をとっている。こうした各国の対応のなかで、日本だけが北朝鮮と真正面から対立するような構図になることが、はたして日本にとって得策であろうか。
 支持率低迷にあえぎ解散さえままならない麻生政権にとってみれば、大騒ぎすることで政権の求心力を高め支持率を回復させたいという思いがあるのであろう。また、自衛隊の存在感を高める効果も期待できよう。分かりやすい「敵」を作り上げることで権力の求心力を高めるというのは、権力にとっての常套手段である。北朝鮮という分かりやすい「敵」が日本の方向に向けて「ミサイル」を発射してきたのだからこれ以上の好機はない、ということであろう。だが、それは、北朝鮮の金正日政権にとっても同じである。日本が騒げば騒ぐほど、日本という分かりやすい「敵」のおかげで、金正日体制の求心力は一層高まるのである。日本の対応は、いってみれば、向こうの思うつぼ、なのである。北朝鮮の「瀬戸際外交」に対し、真っ向からぶつかって怒るだけが能ではなかろう。敵対するばかりでは、対話の道は閉ざされてしまい、核問題や拉致問題といった懸案の解決は遠のくだけである。政府やマスコミに踊らされて大騒ぎするのでなく、冷静な目でものを見ることが、私たちには求められると思う。

 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]