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浦部法穂の憲法時評

 

核廃絶


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2009年7月27日

 ヒロシマ、ナガサキから64年目の夏がやってくる。今年の4月5日にアメリカのオバマ大統領は、プラハで行った演説で、アメリカの大統領としては初めて「核兵器を使用した唯一の国としての道義的責任(moral responsibility)」に言及し、核兵器のない世界へ向けての具体的行動をとることを宣言した。このオバマ演説は、これまで国連総会での核兵器廃絶決議に反対し続けてきたアメリカの核政策の転換として世界の注目を集めた。そして、7月8日から10日に開かれたイタリア・ラクイラでのG8首脳会議(サミット)でも、これを受けて、「核兵器のない世界のための状況を作る」とする文言が首脳宣言に盛り込まれた。さらに、ラクイラ・サミットに先立つ米ロ首脳会談では、戦略核弾頭の上限を現状の2500前後から1500〜1675へ、核弾頭の運搬手段を現状の1600から500〜1100へ削減する事が合意された。

 これまでの核兵器をめぐる国際的枠組みは、「核不拡散」つまり、アメリカ、ロシア、フランス、イギリス、中国といった核兵器保有国以外の核兵器保有を禁ずるというものであった(「核拡散防止条約=NPT」体制)。NPTは、核兵器保有国に対しては、「核兵器の他国への移譲・開発支援を禁止」し「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を課し、非核兵器国については、核兵器の製造・取得を禁止している。そして、加盟国には国際原子力機関(IAEA)による保障措置の受け入れが義務づけられている。しかし、このNPT体制は、インド、パキスタン、イスラエルの核兵器保有(いずれもNPT未加盟)、イラン(NPT加盟国)、北朝鮮(2003年にNPT脱退)の核開発疑惑によって、崩壊の危機にあり、「国際テロ組織」の手に核兵器が渡る懸念もいわれている。

 もともと、このNPTは、5大国にのみ核兵器保有の特権を認めるものであるから、不平等きわまりないものであり、そのことに不満を持つ国があったとしても不思議ではない。また、イランや北朝鮮に対する非難とは裏腹に、イスラエルについてはほとんど不問、インドについては2008年に米印・仏印の原子力協定が日本を含む「原子力供給国グループ」45カ国の賛成のもとに調印され、「インドの原子爆弾保有」が国際的に認められることとなった。こうした「二重基準」もNPTの実効性を妨げてきたのである。まして、「核廃絶」にはほど遠い現状である。世界の核兵器の9割を保有するといわれる米ロの超核大国が率先して核廃絶に取り組まないかぎり、当面の「核不拡散」さえ覚束ないといえる。アメリカ国内には、いまだに、「核による平和」論を妄信し、ヒロシマ、ナガサキを正当化する見解も根強い。その中で、オバマ政権が本気で核廃絶に取り組むのかどうか、注視していかなければならない。
 ひるがえって、日本ではどうであろう。7月16日と17日に、衆議院と参議院は、それぞれ、全会一致で「核兵器廃絶決議」を採択した。日本は唯一の被爆国として核兵器廃絶に先頭に立って行動する責務がある、とし、政府に対し世界の核兵器廃絶に向けての取り組みを強化するように求めたものである。周知のように、日本は「非核三原則」を掲げ、核兵器は「持たない、作らない、持ち込ませない」のだとしてきた。しかし、米軍艦艇による核「持ち込み」についてこれを容認する「密約」があったことは、米側の証言や公文書によってすでに明らかになっており、最近では日本側関係者の証言も出ている。にもかかわらず、政府は「密約はない」と言いつづけ、麻生首相は「改めて調査する気はない」と言った。これでは、唯一の被爆国だと言っても、核廃絶を求めると言っても、本気度は疑われよう。衆参両院の決議も、オバマ演説の後追いでは色が褪せる。
 日本は、日米安保体制のもと、アメリカの「核の傘」に頼ってきた。だから、日本は、「核不拡散」は求めても「核廃絶」を本気で求める立場にはない。少なくとも、国際的にはそう見られている。「核廃絶」となればアメリカの「核の傘」を失うことになるからである。7月3日、国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長に日本の天野之弥氏が選ばれたことは大きく報じられたが、天野氏は決してすんなり選ばれたわけではなかった。最有力候補といわれながら、3月の選挙では当選者が出ず、再選挙さらに信任投票の末、1か国が棄権にまわったため、なんとかぎりぎり当選したのである。日本が事務局長の座を得ればアメリカべったりの運営になるのではないか、という懸念がとくに途上国に強くあったために、ここまでの苦戦になったといわれている。核廃絶に向けて世界の先頭に立つためには、なによりも、「核の傘」に頼る安全保障政策・外交政策をやめなければなるまい。口先だけの「非核」ではなく、核兵器保有国に「核廃絶」を本気で迫ることこそが、「唯一の被爆国」としての責任であろう。

 

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