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浦部法穂の憲法時評

 

議員立法


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2009年10月1日

 民主党が所属国会議員に対し「議員立法の原則禁止」を通知したという。問題の通知は、9月18日に小沢幹事長名で党所属国会議員などに発せられた「政府・与党一元化における政策の決定について」と題する文書である。そこでは、「民主党『次の内閣』を中心とする政策調査会の機能は、全て政府(=内閣)に移行する」とし、一般行政に関する議論と決定は政府で行い、それに係る法律案の提出は内閣の責任で政府提案として行う、との方針が表明された。つまり、議員による法律案提出(=議員立法)は認めない、ということである。ただし、選挙・国会等にかかわる「優れて政治的な」問題は党で議論し、それに係る法律案の提出は党の責任で議員提案として行う、とされており、これらの問題についてのみ議員立法を認める内容となっている。そのうえで、副大臣が主催する「各省政策会議」を設け、与党議員の意見や政策提案を聞くこととしている。

 民主党のこの方針は、自民党政権下では党内の事前審査を経ないと政府が法案を提出できないということになっていたが、そうした政府・与党の二元的意思決定を一元化することで、族議員の関与で法案が歪められたり法案の提出が遅れたりといった事態をなくすためだ、と説明される。わかりやすくいえば、政府の政策決定に与党があれこれ「いちゃもん」をつけてくると政府の政策遂行に支障を及ぼすことにもなるから、一般行政にかかわる政策決定はもっぱら政府が行うこととする、ということである。

 こうした方針が、さして違和感もなく与党第1党によって打ち出された背景には、成立する法律の圧倒的多数は政府(内閣)提出のもの(=閣法)であり議員立法はきわめて少ないという日本の実情がある。そして、国会法は、議員が法律案を発議するには、衆議院では議員20人以上、参議院では10人以上(予算を伴う場合には、衆議院で50人以上、参議院では20人以上)の賛成が必要であるとして、議員による法律案の提案に「しばり」をかけている。国会法は、いうまでもなく、衆参両院の議決によって作られたものであるから、これは、いわば議員の「自己抑制」でもある。議員提出法案には、とかく、自分の選挙区や支持団体・業界の利益のためだけの「おみやげ法案」が多い、ということから、古く1955年に設けられた抑制策である。

 だが、憲法の原則に立ち返ってみると、閣法が主流であり議員立法は抑制されるという立法のあり方は、主客転倒である。憲法41条は、国会を「唯一の立法機関」と定めているが、これには、国会以外の機関による立法は認められない(国会中心立法の原則)という意味と、国会以外の機関が立法に関与することは認められない(国会単独立法の原則)という意味が含まれている。とすると、そもそも内閣が法律案を発議(提出)することは内閣が立法に関与することになるから憲法上認められないのではないか、という疑問が出てくる。こうしたところから、憲法学説では、内閣に法案提出権があるのかどうかが議論の対象になっている。議員の法案提出権については、議員は国会の構成員であるから当然認められるとして、議論の対象にはなっていない。もっとも、こんにちでは、内閣の法案提出権を認める説のほうが多数であり、法律(内閣法)も明文でこれを認めているから、内閣の法案提出権の有無がさほど深刻な問題として議論されているわけではない。しかし、議員の法案提出権は当然認められるが内閣の法案提出権は議論の余地あり、という憲法の原則からすれば、内閣にのみ法案提出権を認め議員立法は禁止するという民主党の方針は、奇異に映らざるをえない。

 議員立法は、たしかに、ろくでもないものも目立つ。しかし、だからといって内閣提出のものだけでいいということにはならない。日本では、内閣提出の法律が主流ということで、議員はたいして勉強しなくても勤まるから、選挙のことしか考えなくなる。日本の国会議員の質の問題は、そのことも大きく影響しているように思う。もし内閣提出法案というものがなくて、すべて議員提出ということで国会が運営されたなら、それぞれの議員一人ひとりが政策立案能力を高めていかなければ、とうてい議員として勤まらないということになるであろう。そういう意味では、日本の政治の「質」を高めるためには、むしろ、内閣による法案提出を認めないこととしたほうがいいようにさえ思う。それでは政府の政策遂行に支障を来すおそれがあるという意見があるかもしれないが、しかし、アメリカでは政府による法案提出は認められていない。すべて議員提出であるが、そのことのために政府の政策遂行が妨げられたという話は聞かないように思う。

 それとともに、日本の議員立法の「質」も、近年では変化してきており、かつての、たとえば薬事法の距離制限規定のような特定業界の既得権保護的なものばかりではなく、被災者生活再建支援法やNPO法、水俣病救済特別措置法など、弱者救済や公共政策的な内容の法律が、超党派の議員立法として成立している。こうした動きをもっと加速することが、本当の意味での「政治主導」といえるのではないだろうか。議員立法禁止という民主党の方針は、これに逆行し、また日本政治の「質」の向上という観点からも、後ろ向きのものだと思う。

 

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