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浦部法穂の憲法時評

 

一票の格差


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2009年10月15日

 選挙のたびに一票の格差ということが問題とされる。今年8月30日に行われた衆議院選挙でも、最大2.34倍の格差があった。こうした一票の格差は、住んでいる地域によって投票価値に大きな違いを生むこととなる点で、選挙権の平等に反するものであり、国会への民意の反映を歪める結果ともなる。その一票の格差について、先日(9月30日)、最高裁がかなり突っ込んだ判断を示した。この最高裁判決は、2007年の参議院選挙の際の最大4.86倍の格差についてのものである。最高裁大法廷の多数意見は、結論としては違憲ではないとしたが、これには、5人の裁判官が明確に違憲とする反対意見を述べ、また、4人の裁判官が補足意見を書いている。

 4.86倍という格差は、とうてい許容できる格差ではない。多数意見も、この格差は投票価値の平等という憲法の要請に照らせば「大きな不平等」であり、国会は、現行選挙制度の仕組み自体の見直しを含めて、速やかに適切な検討をする必要がある旨述べており、4.86倍という格差そのものを合憲としたわけではない。むしろ、この格差自体は憲法に適合しないということは、反対意見のみならず多数意見においても確認されたとみるべきである。憲法に適合しない格差だと認めながら結論は合憲というのは、わかりにくい話だが、要するに多数意見の趣旨は、国会に猶予期間を与えて、格差是正へ向けて真剣に取り組むかどうか、もう少し見守ってやろう、ということである。だから、それは、合憲判断というよりも、違憲判断の猶予である。これに対し、反対意見は、これまでも再三猶予を与えてきたのに小手先の対応しかしてこなかったのだから、もはや猶予すべき段階にはなく、はっきり違憲とすべきだ、というわけである。

 これまで、最高裁は、一票の格差について何度となく判断を示してきたが、衆議院については4倍〜5倍に近い格差を違憲とする一方(1976年、1983年判決など)、2.99倍の格差は合憲とし(1988年判決)、参議院については6.59倍の格差を違憲状態としつつ(1996年判決)、5倍前後の格差については違憲ではないとした(1998年、2004年判決など)。そのため、衆議院については3倍以下、参議院については5倍以下ならばいい、という雰囲気がなんとなく作り上げられ、国会における対応もこれを基準としてきたようにみえる。しかし、3倍とか5倍という数字には何の根拠もない。今回の判決は、参議院について5倍以下でも憲法に適合しないことを確認すると同時に、補足意見および反対意見のなかに、可能なかぎり1対1に近づけるべきであり諸事情を考慮に入れても2倍未満の格差にとどめるべきだ、との明快な見解が示された(金築補足意見、那須・田原・近藤・宮川の各反対意見)点で、従来の判決から一歩踏みこんだ判断がなされたといえる。

 同時に、選挙制度の仕組みそのものの検討が必要であることを、多数意見も示唆し、また、補足意見・反対意見がほぼ共通して述べていることも注目される。都道府県単位の選挙区と全国単位の比例代表で、各選挙区には偶数の定数が配分される(3年ごとの半数改選のため)、という現行の参議院の選挙制度を前提とするかぎり、どう配分し直しても選挙区間の最大格差は4倍を超えることになる、といわれる。とすれば、現行制度を前提とするかぎり、憲法に違反しないかたちでの定数配分は不可能であり、逆に、違憲の格差を解消するためには現行制度の見直しが不可欠となる。都道府県単位の選挙区とすることは憲法上の要請ではなく、3年ごとの半数改選が憲法上定められているとしても、各選挙区に必ず偶数の定数を配分しなければならないということではない。一方、投票価値の平等は憲法上の要請である。そうであれば、現行制度では投票価値の平等は実現できないことが明らかである以上、投票価値の平等が実現できるような制度に改めなければならないというのは、論理的な必然である。そして、その際には、二院制の存在意義を十分ふまえて制度を構築しなければならない。

 連邦制ではなく、また、ともに公選の「全国民を代表する」議員によって組織される二院制の存在意義としては、国会への民意の多元的反映を図ること、および、審議に慎重を期すことが重要なものとしてあげられる。ところが、現在の選挙制度は、衆議院は小選挙区とブロック単位の比例代表、参議院は都道府県単位の選挙区と全国単位の比例代表で、衆議院も参議院もきわめて似かよったものになっている。参議院は衆議院よりも地盤が少し広いだけであり、これでは民意の多元的反映は図れない。衆議院を現行のように各地域の実情に明るい議員を重視するかたちで構成するなら、参議院はより大所高所からの判断ができる議員を選べるような選挙制度にすべきであろう。その意味で、選挙制度自体の見直しは、一票の格差問題だけでなく、二院制の存在意義という点からも、緊急に要請されるというべきである。来年には参議院選挙が行われる。それまでに、選挙制度の抜本的改革が、かりに間に合わないにしても、それに向けた真摯な取り組みが早急になされなければ、今度こそ最高裁も違憲と断ずることになるはずである。

 ともあれ、これまで、こと国・公権力相手の訴訟では遠慮がちにしかものを言わなかった最高裁が積極的な物言いをするようになったという傾向が、今回の問題かぎりではなく、表現の自由など他の領域の問題でも維持されるようなら、最高裁もようやく「本来あるべき姿」に変わろうとする真摯な努力をはじめた、と評価しうるであろうが…。

 

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