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浦部法穂の憲法時評

 

普天間移設問題


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2009年10月29日

 10月20日に来日したアメリカのゲーツ国防長官は、普天間基地の移設問題について日米合意どおりの実施を求め、それなしには海兵隊のグアム移転も沖縄の兵員縮小もない、と述べた。普天間基地の「県外・国外移設」を掲げてきた民主党政権への「恫喝」である。これをうけて、鳩山政権内では、「辺野古移設やむなし」といった空気が漂いはじめている。「マニフェスト」や「政権合意」で唱われた「対等な日米関係」、「自立した外交」は、早くも正念場を迎えようとしている。

 沖縄には、在日米軍施設の75%(面積比)が集中しており、沖縄本島の18%が米軍施設によって占められている。沖縄県民は、日常的に、基地騒音の被害や、航空機墜落などの事故の恐怖にさらされている。そして、たび重なる米兵による犯罪も、県民の不安と憤りを増大させている。1995年9月に起きた米兵3人による少女暴行事件は、県民の怒りを爆発させ、8万人の県民総決起集会が開かれるなど、「復帰」以後最大の反基地闘争に発展した。また、2004年8月に、沖縄国際大学構内に米海兵隊の大型ヘリが墜落した事故では、米軍が付近を立ち入り禁止にし、日本の警察官を退去させたことで、県民の反発が高まった。これらを機に、日米両政府にとっても、沖縄の負担軽減が無視できない課題となったのである。

 米海兵隊所管の普天間基地(飛行場)は、市街地の真ん中にある「最も危険な基地」であり、その移設は、沖縄の負担軽減にとっての、いわば象徴的な問題となっている。95年の反基地闘争の高まりに慌てた日米政府は、96年に、5〜7年以内に普天間基地を全面返還することで合意したが、具体的な移設先についての協議が難航し、実現しなかった。結局、2006年に、在日米軍再編についての日米協議で、普天間基地の海兵隊キャンプ・シュアブ(名護市辺野古)沿岸部への移設、在沖海兵隊1万8000人のうち8000人のグアム移転、嘉手納より南の基地返還などが合意された。ゲーツ国防長官の「恫喝」は、この合意を盾にとったものであり、要するに「県外・国外移設などと言っていたら、普天間の返還はもちろん、グアム移転も嘉手納以南の基地返還もないぞ、それでもいいのか」というわけである。

 しかし、そもそも2006年の合意は、世界的な米軍再編というアメリカの方針に沿ったものであり、沖縄のためというよりアメリカの都合によるものでしかない。アメリカは、冷戦終結や2001年の「9・11テロ」以後の安全保障環境の変化と軍事技術の進歩に対応するため、とくに2001年以後、それまでの「冷戦対応」型の米軍配置を世界的に見直す作業に本格的に着手した。それは、極東(北朝鮮)からインド洋・中東(アフガニスタン、イラン、イラク等)に連なる「不安定の弧」(テロや大量破壊兵器の温床としてアメリカが警戒する地域)に即応可能な形に米軍の展開を編成し直すことを目的としたものである。在日米軍の再編も、その一環として、これに対応するための指揮機能・後方支援機能を在日米軍と自衛隊が一体的に担えるように編成し直す、というものである。したがって、2006年の日米合意も、普天間基地の移設等沖縄にかかる事項だけでなく、キャンプ座間・米陸軍司令部の改編と陸上自衛隊中央即応集団司令部のキャンプ座間への移転、航空自衛隊航空総体司令部と関連部隊の米軍横田基地への移転、厚木基地の第5空母航空団(空母艦載機部隊)の岩国基地への移転などが盛り込まれている。さらに、この合意とは別に、アメリカは、原子力空母の横須賀配備を決めている。
 普天間基地の移設問題は、「沖縄の負担軽減」のためであったはずのものが、米軍再編のなかに組み込まれた結果、もはや、それをどこにもっていけばいいのかという問題ではなくなっている。要するに、「アメリカの都合」の問題の1つになっているのである。だからアメリカは、ここまで強硬な姿勢に出ているのだと思う。では、沖縄に置いておかなければならない「アメリカの都合」とはなにか。それは、一言でいえば、日本の「気前のよさ」である。アメリカ国防総省のまとめによると、アメリカが国外に駐留させている米軍の駐留経費で世界中の同盟国が負担している額は総額約85億ドル、そのうち日本が負担している額は約44億ドルで、全体の50%以上を占めている、という(2002年度の数字)。日本の負担額は、在日米軍駐留経費全体の74.5%にあたる。つまり、米軍を駐留させている他のどの国よりも、日本は、突出して気前よく、お金を払っているのである。アメリカにしてみれば、こんなに気前よく経費を負担してくれる国から出て行くなど、考えられないことである。在沖海兵隊の一部グアム移転にしても、グアムの施設・インフラ整備に要する費用102.7億ドルのうち60.9億ドルを日本が負担するということで、合意されたものである。また、沖縄は、戦後、占領終了後も1972年まで米軍の施政権下に置かれ、72年の「復帰」も米軍基地はそのままにしてのものであって、要するに占領体制がずっと続いているに等しい状態にある。それをわざわざ他の都道府県に移すような煩わしいことをするよりも、沖縄のなかでの移設のほうが、アメリカにとって都合がいいのは当然であろう。

 このように見てみると、普天間移設問題は、日米関係のあり方そのもの、つまり、日米安保体制そのものの、根本的な見直しを迫る問題であるということがわかる。これまでどおりの従属関係を続けていくということなら、辺野古移設しか途はないであろう。そして、その場合には、「沖縄の負担軽減」は「最も危険な基地」をなくすというだけで終わることになろう。それでも何もできないよりはまし、という考え方もあろうが、はたしてそうなるであろうか。


 

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