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浦部法穂の憲法時評

 

外国人参政権問題


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2010年2月18日

 鳩山首相は、外国人に地方参政権を付与する法案を今国会に提出したいと言ったが、これには、あちこちから反対論が吹き出し、なかなか容易ではなさそうである。相も変わらず、「参政権が欲しければ帰化すべきだ」とか、「国益を害する」、「地方政治が外国に乗っ取られる」とかの、レベルの低い議論が臆面もなく語られている。この国の「民度」は、まだまだ「発展途上」のようである。

 もっとも、いまでこそ外国人にも地方参政権を認めるべきだという議論が高まっているが、20年ほど前までは、外国人に参政権が認められないのは当然のことだと考えられていた。憲法学界でも、憲法が採用する国民主権の原理から、外国人に参政権が認められないことは疑う余地のない「常識」とされていた。いまから20数年前、私は、ある学会で、「国民主権だから外国人には参政権は保障されないというこれまでの通説は理論的に間違っており、いわゆる定住外国人には日本国民と同様に参政権が保障されるべきだ」という趣旨の研究発表を行ったが、反応はさんざんたるものだった。要するに「非常識だ」というわけである。そういう反応に対しては、私は、「私が地動説だ」と開き直ったが、その後、外国人の参政権を求めるいくつかの訴訟が提起され、1995年には、最高裁も、地方選挙権に限って控えめながらではあるが、一定の外国人に地方選挙権を付与することは憲法上禁止されているわけではない旨を明言するに至った。そして、外国人の地方参政権問題が政治課題として取り上げられるようになり、政権の側が法案提出を語るまでになってきたわけである。

 「私が地動説」が実証されつつある、と言いたいところだが、私の説は、地方の選挙権に限らない議論であるから、まだまだ道のりは遠い。もちろん、まず地方の選挙権から、というのは、一つのステップとしては、当然あり得る選択肢である。そこからスタートして、徐々に、国政も、被選挙権も、というように人々の意識が進んでいくなら、その段階で、私の「地動説」は完全に実証されることになるだろう。

 私が、「日本に生活の本拠を置く外国人は、日本国民と同様に参政権も保障されるべきだ」という議論を唱えたのは、もちろん、理論的根拠があってのことである(その理論づけに関しては、私の著書なり論文を参照していただくこととして、ここでは触れない)。ただ、それは、理屈の問題だけではない。日本で生活する外国人にも参政権を認めるということは、自分たちの生活に影響を及ぼす重要な事柄を「みんなで決めよう」というときに、その「みんな」の中に外国人も含める、ということを意味する。つまり、同じ生活共同体の「仲間」として外国人を受け入れる、ということにほかならない。逆にいえば、同じように生活しているのに、「みんなで決めよう」というときに、「あなたは入れない」として仲間外れにするのが、外国人の参政権を否定する議論である。私は、こういう、仲間から排除するという意識が、外国人に対する差別や人権侵害の根源になっていると思う。外国人であっても日本を生活の本拠として生活している以上参政権をもつのは当然だ、という意識が定着しなければ、外国人に対する差別その他の人権侵害はなくならないだろう、というのが、理論上の問題とともに、私が外国人の参政権という「非常識」な議論を唱えた理由である。

 現実に、外国人に対する旧態依然たる差別その他の人権侵害は、官・民を問わず、いたるところでみられる。外国人の地方選挙権を容認した最高裁も、一方では、外国人が地方自治体の管理職に就くことはできないとした(2005年)。また、各地の弁護士会が裁判所の求めに応じ調停委員として推薦した弁護士でも、外国籍の弁護士は、外国籍であるという理由のみによって任命を拒否されている。あるいは、民間においては、入居差別や労働現場での差別・人権侵害など、表に現れたものだけでも、いくつもの事例がある。グローバル化だの国際化だのといわれるなか、いまや、外国人を抜きにしてこの国の社会は動いていかない(大相撲でさえ、外国人抜きには成り立たない!)のに、外国人を同じ「仲間」とは認めていないのである。依然として、地球(日本人)は不動で天体(外国人)はそれに従って動いているのだ、という意識が抜けきらないのが、この国の実情だといえよう。

 この非科学的な「天動説」を克服するためには、まずは地方の選挙権からであっても、外国人の参政権を認める法律の制定が不可欠だと思う。外国人参政権問題は、外国人に対する人権侵害をなくしていくための第一歩なのである。

 

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