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浦部法穂の憲法時評

 

憲法改正の「作法」


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2010年5月6日

 今月18日に憲法改正国民投票法が施行される。これをまって、自民党は憲法改正原案を今国会の会期中にも提出する方針と伝えられている。まず最初は、96条の改正手続条項について、国会による憲法改正案の発議の要件を、衆参各議院の総議員の「3分の2」から「2分の1」に緩和する憲法改正原案を出すつもりだという。改正しやすくするために、改正の要件を緩やかにする憲法改正を行おうというのである。なんとも姑息なやり方である。憲法改正について、多くの賛成を得ることを考えるのでなく、少ない賛成でも成立するようにしようなどというのは、心得違いも甚だしい。憲法改正の「作法」をまったくわきまえていない、というほかない。

 これは、国民投票法の審議段階でも問題になったことである。国民投票について最低投票率の規定を設けるべきだとの主張が少なからずあったにもかかわらず、自民党も民主党もこれを容れなかった。そのため、いまのままでは、たとえば30%程度の投票率で改正賛成がぎりぎり過半数であったとすると、全有権者の15%程度というきわめて少数の賛成でも憲法改正が成立する、ということになる。憲法の改正ということは、問題によって程度の大小はあれ、この国の基本的な枠組みや進むべき道に直接的にかかわることである。そうであれば、少数の賛成だけでそれを決めてしまうようなことは避けなければならない。国民の多くが(7〜8割くらいの人が)賛成するような憲法改正でなければならないのである。国会において憲法改正原案を提案しようとするならば、国民の7〜8割の賛成は得られるという見通しのもとに提案すべきであり、それだけの賛成を得られる自信がないのなら提案すべきではない。それが憲法改正の「作法」である。その自信がないから、国民投票に最低投票率の縛りも設けず、さらには国会による発議要件さえも緩和しようとするのであろう。

 憲法改正には国民の7〜8割の賛成が必要だなどということは、たしかに、どこにも書いてない。憲法は、国民投票においてその過半数の賛成を必要とすると定めているから、投票者の過半数の賛成があれば憲法改正は成立する。だから、法的には、たとえば投票率30%でぎりぎり過半数の賛成ということであっても、憲法改正を成立させることは不可能ではない。しかし、法的には可能であるということと、それが望ましいかどうか、あるいは、いいことかどうかは、別問題である。憲法改正ということの意味に照らせば、私は、国民の7〜8割が賛成するような憲法改正であることが望ましいと思う。国民の7〜8割の賛成という数字は、国民投票の場面での数値としては、つねに有権者全員が投票するということは現実的には考えられないから、7〜8割の投票率で7〜8割の賛成というくらいのものになろうか。要は、憲法改正というものは、それくらいの数値を目指して取り組まれるべきものだ、ということであり、それが憲法改正の「作法」だ、ということである。「作法」という言い方をしたのは、法的に要求されるものではないけれども、わきまえられるべきもの、という意味合いにおいてである。

 憲法改正の「作法」ということでいえば、もう一つ、憲法改正は、そもそも、国会議員たちが主導して行ってよいものではない、ということがある。憲法は、国民から権力担当者に向けられた指示・命令である。国会議員は、その指示・命令を受ける側にいる。指示・命令を受ける側が、その指示・命令は都合が悪いから変えようなどと言い出すのは道理に合わない。国民の側から、現行のままではうまくいかないようになったから変えようという声が高まったときに、それを受けて国会議員たちが改正原案を議論するというのが、本来の筋である。そういう憲法改正ならば、国民の7〜8割の賛成という数字も、決して無理な数字ではなくなるはずである。いま現在、国民の側から、ここをこう変えたいという具体的な改正の声が高まっているという状況にはない。にもかかわらず、改正原案を国会に提出するというのは、これも「作法」をわきまえない行いである。

 自民党が考えているといわれる憲法96条の改正手続条項の改正については、学説上は、硬性憲法(憲法改正について、通常の法律よりも厳格な要件・手続を定めている憲法)を軟性憲法(通常の法律と同じ要件・手続で改正可能な憲法)に変えてしまうような改正は許されない、とする立場が有力である。国会による発議の要件を「3分の2」から「2分の1」に変えるという自民党の主張は、国民投票まで廃止しようというものではないようなので、軟性憲法に変えてしまうということにはならない。だから、これも法的には、許されないとまではいえない。しかし、明らかに「作法」には反する。何ごとも、法的に可能ならば何をしてもいいというわけではないのであって、憲法改正についてもまた同じである。


 

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