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浦部法穂の憲法時評

 

参議院選挙


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2010年7月15日

 7月11日に行われた参議院議員選挙は、与党民主党が改選数を10も下回る44議席の獲得にとどまる惨敗(非改選62)、連立を組む国民新党も獲得議席0(改選3・非改選3)で、与党は参議院で過半数を割ることとなった。この結果、3年前の参議院選挙の時と同じ、いわゆる「ねじれ国会」が、いわば攻守ところを変える形で、再び出現することとなった。ただ、3年前と違う点は、当時の与党(自民党+公明党)は衆議院で3分の2以上の議席を有していたのに対し、いまの与党(民主党+国民新党)は3分の2までの議席を衆議院でもっていないという点である。

 この、衆議院で3分の2という数字は、非常に大きな意味をもつ。というのは、法律は衆議院・参議院両院で可決されてはじめて成立するのが原則であるが(憲法59条1項)、憲法は、衆議院で可決した法律案について参議院で異なった議決がなされたときは衆議院で3分の2以上の多数で再可決すれば法律として成立する、と定めており(憲法59条2項)、したがって、与党が衆議院で3分の2以上の議席をもっていれば、たとえ参議院で否決されても、衆議院の再可決によって法律を成立させることができるからである。実際、3年前の「ねじれ国会」では、「テロ対策特別措置法」(2008年)や「海賊対処法」(2009年)など、参議院で否決されたものを衆議院の再可決によって成立させた例が10件ほどあった。要するに、衆議院で3分の2以上の議席をもっていれば、参議院がどうであってもお構いなしに事を進めることができるのである。

 だが、今回はそうはいかない。野党の主張も取り入れなければ法律は一つも成立しない、という状況が生まれたのである。一般論としていえば、これは悪いことではない。もちろん、「これ」とは、法律が一つも成立しないことではなく、野党の主張も取り入れる、ということを指す。いろいろな機会に何度も指摘してきたことだが、民主主義政治において最も重要なことは、少数者の意思をいかに反映させていくかということである。もちろん、最終的な決定は多数決によらざるを得ないが、多数派が少数派の意見に全然耳を貸さず、問答無用に「数」で押し切ってしまうならば、それはもはや民主主義ではなく多数派専制である。最終的に多数決で決めるまでに、少数意見を十分に聞き十分に討議したうえで調整を図り、少数派の民意をも最大限くみ入れる形で多数を形成していくことが、本当の民主主義だといえる。そういう観点からいえば、野党の主張も取り入れなければならない状況というのは、民主主義政治にとってむしろ好ましい状況だともいえるのである。

 もっとも、与党だとか野党だとかいっても、それが、政策や理念の違いで分かれているのではなく、選挙目当てや権力目当てだけで、くっついたり離れたりしている政党ばかりでは、少数者の意思の反映云々も、絵空事にすぎないものとなる。そういうなかでの「野党の主張も取り入れなければ法律は一つも成立しない」状況は、それこそ、重要法案は一つも成立しないという最悪の結果をもたらすことになりかねない。あるいは、数あわせのためだけの新たな連立の枠組みが作られる可能性もあるが、そこまで無節操な政治もまた最悪である。一般論としては民主主義政治にとってむしろ好ましい状況も、いまの日本の現状のもとでは、逆に最悪の結果をもたらす危険性を抱えているようにも思われる。はたしてどちらへ転ぶのか、この「ねじれ国会」状況は、日本の民主主義政治の成熟度を測る試金石ともなろう。それとともに、野党の主張だけでなく、議席に反映されない少数者の意思にも、どこまでどう配慮できるかということも、「本物」の民主主義にとっての重要な要素になることを忘れてはならないであろう。

 さて、どこでもいつものことではあるが、民主党内では、今回の参議院選挙での敗北で、菅代表の責任論がくすぶっている。直ちに退陣ということにはならないようであるが、もし、9月の民主党代表選挙で首のすげ替えが行われれば、あるいは小沢氏が民主党を割って出るようなことがあれば、またしてもわずか数ヶ月で首相交代ということになる。万が一、そういうことになれば、日本はもうどこの国からもまともに相手にされなくなるであろう。それだけは避けてもらいたいものである。


 

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