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浦部法穂の憲法時評

 

日印原子力協定


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2010年8月5日

 広島・長崎への原爆投下から65年目の夏を迎えた。今年は、6日の広島平和式典に米・英・仏がはじめて出席者を送るという。フランスは9日の長崎平和祈念式典にもはじめて出席する。そのほか、ロシア・パキスタン・イスラエルといった核兵器保有国も出席を表明している。原爆投下を正当化してきたアメリカや英・仏等の核兵器保有国が出席することは、核廃絶への国際的な世論を盛り上げるためにも意義深いことだといえる。日本としては、これを機に、核廃絶へ向けての具体的な取り組みを本気で進めていくべきである。

 ところが、菅政権は、これとは正反対のことをやろうとしている。6月の終わりに「日印原子力協定」締結の交渉をインド政府と始めたのである。インドへの原発売り込みのためであるが、しかし、これが、「平和利用だからいいじゃないか」では済まない重大な問題を抱えているのである。インドは核不拡散条約(NPT)未加盟の核兵器保有国である。NPTは、米・露・仏・英・中の5か国のみを「核兵器国」として認め、これら「核兵器国」に対して「核兵器の他国への移譲・開発支援を禁止」し「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を課すとともに、この5か国以外が核兵器を製造・取得することを禁止している。そして、加盟国には国際原子力機関(IAEA)による保障措置を受け入れることを義務づけている。インドは、このNPT体制の枠外で核開発を進め、核兵器を保有するに至ったのである。

 現在、NPT未加盟で核兵器を保有しているとみられる国は、インドのほかパキスタン・イスラエル・北朝鮮(2003年にNPT脱退)であり、また、NPT加盟国でありながら核開発の疑惑がいわれているのはイランである。北朝鮮やイランの核開発については、国際社会から厳しい批判がなされていることは、マスコミ報道の論調などからも、多くの人は知っていると思う。しかし、その一方で、アメリカのブッシュ前政権は、インドを特別扱いし、2008年に「米印原子力協定」を結んでインドに核燃料や核技術等を供給することとした。そして、アメリカにならってフランスも、同年、インドとの間で原子力協定を締結したのである。この、米印・仏印の協定には、日本も賛成したが、米・仏の「核兵器国」による核燃料・技術等の供給はNPT違反の疑いもあり、また、なによりも、NPT体制の枠外での核兵器保有を事実上承認することとなって、NPT体制の崩壊につながりかねないものである。

 ブッシュ前政権が、インドを特別扱いした背景には、一つには、中国に対する牽制という意味と、もう一つは、数百億ドルともいわれる巨大なインド原発市場に優位的に参入するためであった。アメリカでは、ゼネラル・エレクトリック(GE)とウェスチングハウスという2つの原発メーカーがインドへの原発売り込みを狙っている。それを可能にするためには、NPTに穴を空けてでもインドとの原子力協定が必要だったわけである。また、フランスもアレバという原発メーカーが、やはりインドへの売り込みを狙っており、そのためアメリカに続いてインドと原子力協定を結んだのである。現在、GEとアレバはインド政府からすでに受注を受け、ウェスチングハウスは交渉中とのことである。

 ここで、しかし、障害があった。日本企業との関係である。GEは日立製作所と、ウェスチングハウスは東芝と、アレバは三菱重工と、それぞれ提携関係にある。米・仏のこの3社が原発を建設するには、それぞれの提携先の日本企業の技術や部材等が不可欠となる。つまり、せっかくインドで受注しても、日本企業の協力がなければ原発建設が難しくなるわけである。そこで、アメリカとフランスは、日本に対してインドとの原子力協定の締結を強く求めてきたのである。インドの原発市場への参入は、もちろん、日本企業の望むところでもある。こうした内外からの圧力によって、「日印原子力協定」の交渉が開始されることとなったのである。

そもそも、民主党は「米印原子力協定」を批判していたはずである。それが、政権を取ったとたんに、追認するだけでなく日本も積極的にコミットする方向に大きく方針転換したということになる。こうも簡単に変節するのでは、「政権交代」の意味がない。じつは、民主党政権は、原発売り込みにきわめて熱心であり、今年に入ってから、インド以外にも、3月にはカザフスタンと原子力協定を締結し、4月には南アフリカとの間で交渉開始が合意され、6月にはヨルダンとの原子力協定が合意に達した。また、7月には岡田外相がベトナムを訪問し原子力協定の交渉入りを要請している。さながら「原子力商人」の様相だが、「商売熱心」のあまり、インドは特別にワケが違うということを、そして、自身もそう言ってきたことを、忘れてしまったのであろうか。折しも、菅首相の私的諮問機関が「非核三原則」の見直しを提言したとの報道もあった。核問題に対する民主党の基本的立場が問われる。


 

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