法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

浦部法穂の憲法時評

 

武器輸出三原則


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2010年11月4日

 民主党が「武器輸出三原則」の見直しを検討することを決めたという。党の外交・安全保障調査会で検討し11月中にも政府に提言するということのようである。北沢防衛大臣は、今年1月に、日本防衛装備工業会の会合で「そろそろ基本的な考え方を見直すこともあってしかるべきだ」などと述べたが、このときは当時の鳩山首相が直ちに「三原則は堅持する」と述べて「見直し」を否定した。しかし、10月11日にベトナム・ハノイで行われたゲーツ米国防長官との会談のなかで、北沢防衛大臣は、さらに踏み込んで、本年末の「新防衛計画大綱」策定に合わせて見直しを検討する考えを表明した。そして、10月22日、菅内閣は、自民党議員からの質問趣意書に対し「三原則を取り巻く状況の変化を考慮しつつ、その扱いについて議論していく」との答弁書を閣議決定した。ここに来て、政府・民主党は「武器輸出三原則」見直しの方向へ急速に舵を切ったといえる。

 「武器輸出三原則」とは、1967年に当時の佐藤栄作首相が国会答弁で、「共産圏諸国」、「国連決議で武器などの輸出が禁止されている国」、「国際紛争当事国またはその恐れのある国」への武器輸出は認めない、としたことから生まれたもので、その後、1976年には三木内閣が、政府統一見解として、三原則対象地域以外の地域に対する武器輸出も「慎む」こと、武器製造関連設備も「武器」に準じて扱うこと、など、より厳しい規制を設けたことで、事実上いっさいの武器の輸出が禁じられることとなったものである。この原則の根拠となるのは、いうまでもなく、憲法の掲げる平和主義であり、武器の輸出によって国際紛争等を助長するのは「日本国憲法の理念である平和国家の立場」に反するという考え方からである(1981年の衆・参本会議における「武器輸出問題等に関する決議」)。

 もっとも、その後、1983年に、中曽根内閣は「日米同盟」を理由にアメリカに対しての武器技術供与は三原則の枠外として認めることとし、さらに、2004年には、小泉内閣が、日米で共同技術研究を進めるミサイル防衛(MD)に関する共同開発・生産を三原則の例外とすることを決定した。アメリカは、ほとんどつねに「国際紛争当事国」であり続けているから、そこへの技術供与やそことの共同開発・生産を例外として認めたのでは、「武器輸出三原則」は半分以上空文化したに等しい。民主党政権は、それをさらに「見直す」というのであるから、アメリカだけでなくどこの国とであっても共同開発・生産ができるようにし、また、どこの国に対しても輸出できるようにしよう、というのであろう。

 実際、三原則の「見直し」をずっと求めてきた産業界や防衛省の言い分は、そうである。兵器システムは、いまや国際共同開発が主流になってきており、三原則のためにこれに参加できない状態では、日本の防衛産業は技術革新に取り残され生産基盤や技術基盤がどんどん劣化していってしまう。このままでは日本の防衛産業は衰退の一途をたどってしまうから、三原則を見直すべきだ。そして、他国との共同開発ができないために、自衛隊の装備は、輸入と単独開発でまかなわなければならず、単独開発した装備も他国へ輸出できず自衛隊にしか売れないから、きわめて割高なものになり、その結果、日本の武器購入費は異常なコスト高となっている。防衛力整備のコスト低減のためにも三原則の見直しが必要だ。――ざっと、こんなところである。
 要するに、防衛産業の育成・生き残りやコスト減といった、もっぱら経済的・財政的観点からのみ、「見直し」の必要性が語られているのである。そこには、憲法の平和主義はもちろん、国際社会のなかで日本がどのような役割を果たしていくべきなのか、といった基本的な「理念」や「哲学」は、まったく見受けられない。ただ「金儲け」のことしか眼中にないのである。「金儲け」のために人殺しの道具を売りまくろう、という話でしかないのである。しかし、始末の悪いことには、そういう不道徳な話が、現下の景気低迷や雇用不安、そして国家財政の危機という状況のなかでは、こうした問題の解決にも役立つ話として、不道徳とも感じられずに進められていってしまうことになる。これほど危険なことはない。政府・民主党の「武器輸出三原則」見直しの動きは、まさにそれではないかと思う。このまま「見直し」を進めるということなら、現在の民主党政権は、あるいは民主党という政党そのものが、「理念」も「哲学」もまったく持ち合わせていない政権であり政党である、と言うしかないことになる。


 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]