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浦部法穂の憲法時評

 

韓国ドラマ『戦友』


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2010年12月2日

 朝鮮戦争が勃発したのは、1950年6月25日であった。だから、今年は、朝鮮戦争勃発60周年ということになる。韓国KBSテレビは、これを記念して、今年の6月から、この戦争を描いたドラマ『戦友』を放送した。日本では、いま、KBS Worldで、日本語字幕付きで見ることができる。主演は、『初恋』、『海神(ヘシン)』、『大祚栄(テジョヨン)』のチェ・スジョン。相手役として、『噂のチル姫』でも軍人役をやったイ・テランが「北」の人民軍の将校という役どころで出ている。この二人、もともと恋人同士だったのだが、「南」と「北」に分かれ銃を向け合わなければならないことになってしまったのである。

 このドラマは、1975年に朝鮮戦争25周年企画として作られた同名ドラマのリメイクだそうだが、前作がイデオロギー的な性格の強いものだったのに対し、今回は、戦争を経験していない若い世代に戦争の残酷さを知らせて反戦・平和のメッセージを伝えることを意図したものだ、とされる。KBS Worldの放送は、全20話の12話が終わったところなので、まだ全体の印象は語れないが、それでも、随所にその意図は感じとることができる。銃を撃つのも撃たれるのも怖くて韓国軍から脱走し、逃げるうちに行きがかり上、人民軍兵士になりすまさなければならなくなった若者の、「国軍でも人民軍でも、そんなのはどちらでもいい。とにかく生きたいんだ」と語る姿。人民軍の補給基地の爆破を命じられた韓国軍の部隊が最初の作戦に失敗し、最後の手段は手榴弾を抱えて自爆するしかない、となったとき、「そうしなければ多くの人が死ぬことになる」という部隊長の説得に対し、「(多くの人といっても)名前も知らない人ばかりじゃないか。そのために自爆するなんていやだ」と抵抗する兵士たち(結局、自爆作戦は回避されることになる)。そんなところに、戦争で殺し合うことや命を捧げることの無意味さ・ばかばかしさが、本音で語られているように感じられた。

 さて、その60周年という節目の年も終わろうかというときに、北朝鮮が突如、韓国・延坪島(ヨンピョンド)を砲撃するという暴挙に出た(11月23日)。この砲撃によって民間人にも死者が出た。北朝鮮と韓国との間の軍事的衝突はこれまでにも何度もあったが、民間人の住む陸地に対する砲撃は、1953年7月の休戦協定以来なかったことであるから、今回の事態が深刻に受けとめられるのは無理もない。延坪島は、「国連軍」が引いた「北方限界線(NLL)」のすぐそばの島であり、北朝鮮はこのNLLを認めていない。北朝鮮が主張する境界線からいえば、延坪島は北朝鮮領ということになり、そこに住む住民は北朝鮮の国民だということになるはずである。つまり、北朝鮮の主張を前提にすれば、北朝鮮は、「南の挑発に対抗する」ために自国民に向けて大砲を撃ち込んだ、ということになる。まったく矛盾した行為だといわざるをえない。もっとも、それが権力の本質であり、権力者の利益・必要のためには自国民を殺戮することさえ厭わないのが軍の論理というものなのであるが。(ただし、北朝鮮が延坪島の領有権を公式に主張したことはないようである。延坪島が韓国領であることは北朝鮮も認めている、との情報もある。)

 こういう北朝鮮の暴挙に対して、対北朝鮮強硬論が勢いを増している。まともな論理の通じない国への対処の仕方は難しいが、軍事的な圧力を強めたり、あるいは新たな制裁措置を発動したりといった強硬策で解決できるなら、とうに問題は解決しているであろう。「窮鼠猫を噛む」的状況に追い込むことになったら、かえって危険である。「冷戦」が終結して20年というのに、いま、この東アジアで、米・韓・日 対 中・朝・(ロ)という「新たな冷戦」構造を作り上げるようなことは、なんとしても避けなければならない。それは、日本の安全保障ということに限って言っても、マイナスでしかないであろう。そのためには、日本の「外交力」が求められるところであるが、残念ながら、対米追随・従属のなかにどっぷり浸かってきた日本には、まったく外交力がない。

 振り返ってみれば、日本の対米追随・従属路線が決定づけられたのは、朝鮮戦争が契機だったといえる。これによって、アメリカ極東戦略への日本の組み込みが決定づけられ、アメリカ主導による早期講和と日米安保体制が決定的なものとなった。自衛隊の前身である警察予備隊が朝鮮戦争開戦直後に作られ、日本の再軍備が既定の路線となった。そして、アメリカ軍の日本での緊急調達(朝鮮特需)によって日本経済は急速な復興を遂げ、以後、日本は、隣国との関係さえもっぱらアメリカまかせにして、経済成長の道を邁進することになったのである。

 この60年間の間に、いわば「習い性」となった対米追随・従属の発想から、日本の政府と国民が抜け出すことができるかどうか、それが、北朝鮮にまつわる種々の問題の解決のための鍵となるであろう。そして、なにより、韓国ドラマ『戦友』が描こうとしたような、戦争の残酷さ・愚かさ・ばかばかしさを、私たち一人ひとりがしっかり見つめ、威勢のいい煽動に決して乗らないことが重要だと思う。

 

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