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浦部法穂の憲法時評

 

脱・原発


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2011年6月2日

 福島第1原発の事故は、2ヶ月半以上経っても、一向に先の見通しすらつかない状況が続いている。そればかりか、「実はこうだった」という話が、後から後から、ちょろちょろちょろちょろ小出しに出てきて、東電や政府の公式発表を信じていいのかどうか、隠された真実があるのではないか、本当は恐ろしい事態になっているのに国民にそのことが知らされていないだけなのではないか、などなど、疑心暗鬼が広がるばかりである。

 しかし、事故の収束見通しもいまだつかず、国民の不安も高まっているのに、この大事故の足もとの日本で、「脱・原発」の世論も運動も、驚くほど高まりをみせていない。そして、そうであれば当然のことながら、政治や経済の場での「脱・原発」の具体的動きはなく、むしろ原発推進の既定路線じたいは変更できないといった類の言説がまかり通っている。福島の事故以後、反原発の世論がわき起こり、大規模なデモなどもあちこちで行われ、ついには政府が2022年までに原発を全廃するという「脱・原発」宣言をしたドイツと、国民の反応も政府・経済界の対応も、あまりに対照的である。日本で起きた事故なのに、そしてドイツと違って国中どこでも大きな地震に見舞われる可能性のある日本なのに、なぜこうも反応が鈍いのか。日本人のその「冷静さ」は、世界の人々から賞賛された、あの大地震と大津波の直後にみせた「冷静さ」と違って、世界の人々には、おそらく奇異に映るのではなかろうか。

 日本で「脱・原発」の声が大きくならないのは、たぶん、「原発をなくして、どうやって必要な電気をまかなうのだ」という問題が一番の要因だろうと思う。全国10電力会社で作る「電気事業連合会」のホームページには、「原子力発電を進める理由」として、次のような記述がある。

 「燃料の安定供給が可能 原子力発電の燃料となるウランは、石油に比べて政情の安定した国々に埋蔵されていることから、資源の安定確保が可能です。また、使い終わった燃料は再処理することで再び燃料として使用する事ができ、準国産のエネルギー資源になります。/発電時にCO2を排出しない 核分裂のエネルギーを利用する原子力発電は、発電の過程でCO2を排出しません。発電時にCO2を排出しない原子力発電は、温暖化対策の切り札の一つとして期待されています。/電気料金の安定に役立つ 原子力発電の利点は、電気料金にも反映されています。これは、発電コストに占める燃料費の割合が、火力発電などほかの発電方法に比べて低く、燃料費の高騰による発電コストの上昇を避けることができるためです。」

 つまり、原子力発電は、温暖化対策という意味でも、また、安定して経済的に電力を供給するという意味でも、利点が大きく、したがって、「原子力をベースに、火力、水力など、それぞれの発電方式の特性を活かし、組み合わせる形が日本における『電源のベストミックス』と考えています」というのである。また、安全性に対する不安に対しては、「多重防護」「自己制御」で事故が起こらない仕組みになっており、地震に対しても「例え大きな地震が起きても、周辺の人々や環境に放射性物質による影響をおよぼすことのないよう、原子力発電所では設計から実際の建設、運転に至るまで万全の地震対策を行っています」と、「絶対安全」を強調している。

 福島の事故のあともこれらの記述がまったく見直されていないというのも、電力会社経営陣の神経を疑うが、私たちも、こうした電力会社側の説明に、なんとなく言いくるめられてきた面があるように思う。しかし、今回の事故で、これらの説明がまったくウソだということがはっきりした。CO2を排出しないというが、原発は温水を海に捨てて海水温を上昇させるから海水中のCO2を上昇させるし、CO2よりはるかに危険でやっかいな放射能を排出するから、決して「クリーンエネルギー」ではありえない。また、使用済み核燃料・放射性廃棄物の処理や事故が起きたときの対処・賠償まで計算に入れれば、きわめて高コストなエネルギー源である。ウランも、石油より埋蔵量は少ないともいわれており、将来にわたって安定的に手に入るという保証はない。地震や津波対策も、100%安全はありえず、ひとたび「想定外」の自然災害で破壊されれば、いままさに福島で起きているとおり、制御不能の事態に陥り、とりかえしのつかない大きな被害をもたらすことになりかねない。要するに、原発は、危険なだけでメリットは全然ないといっていいものなのである。だとしたら、そんなものはさっさと廃止するのが賢明だろう。

 では、原発を廃止して足りなくなった電力はどうするのか。節電はもちろん必要である。それは、原発を廃止するとかしないにかかわりなく求められる。太陽光発電など自然エネルギーを増やすことも重要である。ただ、天候に左右される自然エネルギーは、安定性という点で弱点をもつから、「原発の代わりに自然エネルギーを」では、「脱・原発」のスローガンとして弱い。では、どうしたらいいのか、だが、実は、日本全体でみた場合、現状では、原発を廃止しても電力不足にはならないというのが、本当のところらしい。つまり、過去の電力使用量の統計をみると、これまで、日本全体で、真夏のピーク時の最大電力が「火力+水力」の発電能力を超えたことは一度もない、ということなのである(ダイヤモンドオンライン2011.5.11「広瀬隆 特別インタビュー」、小出裕章『隠される原子力 核の真実』など参照)。すべての原発が稼働しなくても、火力と水力だけで十分に電気はまかなえる計算なのである。これが正しければ、いますぐすべての原発を止めても大丈夫だということになるから、「脱・原発」はその気になればすぐにできることになる。

 震災直後、東京電力管内では「計画停電」などといわれるものが実施されたが、数日で行われなくなった。原発が止まっていても東京で停電は起こらないし「計画停電」も必要ない、ということは、原発なしでも電気はまかなえることを実証しているといえる。「計画停電」は、もしかしたら、原発が必要だと思い込ませるためのデモンストレーションだったのでは、とさえ思える。夏場には確実に不足するともいわれるが、ほんとうにそうなのか。ともかく、すべての情報・データを明らかにして、「脱・原発」を本気で考えるべきだと思う。

 

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