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浦部法穂の憲法時評

 

野田内閣と普天間問題


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2011年9月22日

 2009年9月の「政権交代」からわずか2年で、早くも3人目の首相である。「政権交代」前も、安倍・福田・麻生と、3代続けて毎年首相が交代していたから、鳩山・菅まで、これで5代連続、1年しかもたない内閣が続いたことになる。野田首相も、おそらく来年の民主党代表選挙までの「つなぎ」であろうから、やはり1年くらいで交代という可能性は大いにある。長期政権がいいというわけでは決してないが、これだけ落ち着きのない政治も困ったものである。
 おまけに、この野田内閣は、発足から1週間足らずで鉢呂経産相が「失言」で辞任するなど、前途多難の船出である。もっとも、鉢呂氏が辞任に追い込まれた「死の町」発言は、これをことさらに問題視するマスコミの感覚のほうに、私はより大きな問題を感じる。この発言を問題にすることが、福島の原発事故をそれほど深刻でないと思い込ませようという意図とつながるように感じられるからである。

 それはともかく、鉢呂氏にかぎらず、野田内閣の顔ぶれをみると、なにやら「軽さ」を否めないような気がする。その「軽さ」を見てとったのか、野田内閣になってから、とくに普天間基地移設問題に関するアメリカからの「圧力」が強くなってきたように感じる。
 「最低でも県外」と明言した鳩山・元首相は、アメリカからしてみれば、素直にいうことを聞かない扱いにくい存在だったのであろう。結局鳩山氏は、「日米同盟にひびを入れた」という日米双方からの非難の嵐に抗しきれず、辺野古への移設を受け入れることを日米共同声明の形で改めて表明し(2010年5月)、その直後に辞任した。あとをうけた菅・前首相は、鳩山政権下の日米合意を継承すると言ったものの、「沖縄県民の合意が得られなければ辺野古移設の計画を実行することは困難だ」などとして、実際には何もしなかった。その菅氏も、「脱原発」を突出させたことも一つの大きな要因となって、与野党双方からの「菅おろし」の大合唱に屈することとなった。

 その間、2年のあいだ、アメリカとしては、素直にいうことを聞かず、具体的な動きもみせない日本政府に、イライラを募らせてきたのであろう。そこへ、「軽い」感じでいうことを聞きそうな野田内閣の誕生である。ここぞとばかりにアメリカが「上から目線」で圧力を強めてきたのは当然であろう。この間の報道を追ってみると、まず、野田首相誕生直後の9月4日、オバマ大統領は野田首相との電話会談で、普天間基地移設の完遂を求めた。就任直後の電話会談では、通常、祝意を述べるだけで具体的な問題には踏み込まないのが外交儀礼だということで、これは極めて異例のことであった。そして、9月7日には、玄葉外相とクリントン国務長官との電話会談で、普天間基地の辺野古移設実現に向け協力を強化することで一致したという。さらに、9月9日には、ルース駐日大使が一川防衛大臣を訪れ、普天間基地の辺野古移設を早急に進めるよう要請、16日には、パネッタ国防長官も一川防衛大臣との電話協議で、普天間移設は「日米同盟」の進展にとってきわめて重要な問題だとして、日米合意の推進を求めた。

 こうしたアメリカの圧力に、野田政権は唯々諾々と従う姿勢を見せるだけである。防衛省は辺野古への移設計画に基づく環境アセスメントを年内にも出す方針だと伝えられており、これが出されれば、辺野古への移設に向けた手続きは大きく「前進」することになる。そして、政府は、9月16日に普天間移設問題を協議する「沖縄関係閣僚会議」の初会合を開き、普天間基地を辺野古に移設する日米合意の遵守を確認、財務大臣もメンバーに加えることで、移設問題と「振興策」とをリンクさせる気配をにじませている(つまりは、札束をちらつかせて呑ませる、というやり方)。9月19日には、ニューヨークで日米外相会談が行われ、玄葉外相は日米同盟を日本外交の基軸としてさらに深化・発展させていく野田政権の方針を強調し、普天間移設合意を着実に履行することを確認した。21日に行われた日米首脳会談でも、「結果」を求めたオバマ大統領に対し、野田首相は「全力を尽くす」と応じた。

 アメリカの側では、巨額の財政赤字を背景として国防予算の削減が課題となっており、その観点から、米議会の中では普天間基地の移設計画の変更を主張する声も出てきている。そのため、辺野古への移設計画の進展がみられなければ議会はそれに必要な予算も認めないから普天間基地は移設できずそのまま固定化されるぞ、という「脅し」が米政府関係者から言われたりもする。そういう「脅し」をうけて、野田首相は9月13日の所信表明演説で、普天間移設問題については日米合意を踏まえて「(普天間基地の)固定化を回避し沖縄の負担軽減を図る」と述べた。首相も外務大臣も防衛大臣も、アメリカ政府・政府関係者の言うことは絶対で決して逆らうことはできない、といわんばかりの対応である。

 普天間基地は、住宅密集地の中にあって、「世界で最も危険な基地」といわれている。だから、それをなくすことは緊急の課題である。しかし、普天間基地がなくなればそれでいいというわけでは決してない。どうやって沖縄の負担軽減を図るか、であり、それを本気で実現しようとするならば、日本がこうも気前よく米軍の駐留を認める必要が本当にあるのか、を問うことこそが必要となる。そのうえで普天間基地の撤去をアメリカに対して求めていくことが、日本の政府のなすべきことである。そうではなく、アメリカの要求にただただ追随して、「ごもっとも。なんとしてもやり遂げます」と言うだけだったら、そんな政府は私たちの政府ではない。沖縄県民がこぞって反対している中で、いったいどうやって「やり遂げる」というのであろう。「銃剣とブルドーザー」で強行する、とでもいうのであろうか。そんなことさえ現実にあるかもしれないと思わせるほどに、野田内閣の「対米従属度」は高い。マスコミ等では、野田内閣に対して「安定感がある」という肯定的評価もあるようだが、その論調をみると、アメリカに逆らわずアメリカとぎくしゃくしないことが「安定感」という評価につながっているようにみえる。そんな「安定感」だったら、ない方がはるかにいい。




 

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