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浦部法穂の憲法時評

 

「教育基本条例」案


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2011年10月6日

 大阪が危ない。橋下知事とその率いる「大阪維新の会」が、またまたとんでもない条例案を府議会に提出したのである。「教育基本条例」と題する条例案である。これは、一言でいうと、大阪府下の学校教育を知事の考えに従わせ、いうことを聞かない教員や校長や、教育委員さえも、クビにする、という条例案である。この条例案については、学校の先生たちはもちろん、大阪府の教育委員も全員が(橋下知事が任命した委員も含めて)「可決されれば辞表を出す」と猛反発している。橋下知事は、今度は大阪市を自分のものにすべく、知事を辞職して11月の大阪市長選挙に出馬し、後釜には自分の「子分?」を立てて、市長選と知事選との「ダブル選挙」に持ち込むこととしており、この条例案については、今の府議会では採決せず11月の「ダブル選挙」後の府議会で採決する方針だという。つまり、選挙で勝つことを見越して、選挙で勝ったのだから民意は我にあり、という論理で、反対論を完全に封じ込めようというわけである。

 こうした橋下流の独裁政治(最近ではファシズムをもじって「ハシズム」という言葉も聞かれる)に対して、自民党や民主党も、府議・市議レベルでは「なんとかしなければ」という意識が強く、11月の「ダブル選挙」では対抗馬を立てて戦う姿勢を見せているが、中央の本部は、自民も民主も「腑抜け」で、「『維新』との連携もありうる」などと言っている。「維新」を敵にまわすと次の衆議院や参議院の選挙で負けるおそれがあるから、というので、国政選挙で「維新」の協力を得るために、知事選や市長選では「維新」との対立は避けよう、というのである。選挙に勝つことしか頭にない「エセ政治家」ばかりだ、ということなのだろう。11月の選挙で橋下「維新」が勝つようなら、この国の未来は暗い。大阪府民・大阪市民の見識が問われている。

 さて、この条例案の何がとんでもないかというと、少なくともたてまえ上はずっと維持されてきた教育への政治介入の禁止(教育基本法16条の「不当な支配」の禁止。2006年の教育基本法「改悪」でもこの点は維持されている)を正面から否定し、教育への政治関与を積極的に進めることを堂々と宣言している点である。条例案の前文は、こう言っている。

 「教育行政からあまりに政治が遠ざけられ、教育に民意が十分に反映されてこなかった結果生じた不均衡な役割分担を改善し、政治が適切に教育行政における役割を果たし、民の力が確実に教育行政に及ばなければならない。」「(地方教育行政の組織及び運営に関する法律の定めに照らせば)議会が条例制定を通じて、教育行政に関与し、民意を反映することは、禁じられているどころか、法律上も明らかに予定されているのである。」

 そこでいう「不均衡な役割分担」とは何を指しているのか不明だし、地教行法の理解の仕方もでたらめだが、ともあれ、そういう認識のもとに、条例案は、知事が教育目標を設定し(第6条2項)、その目標を実現するための具体的な教育内容を盛り込んだ指針を教育委員会が作成して各校長に提示、それをもとに各校長が学校の具体的・定量的な目標を設定し学校を運営するという、知事主導のトップダウン教育を行うものとする。そして、教員は「自己の崇高な使命を深く自覚するとともに、組織の一員という自覚を持ち、教育委員会の決定、校長の職務命令に従うとともに、校長の運営方針にも服さなければならない」(第9条1項)として(ご丁寧なことに、第9条3項でも「組織の一員として、教育委員会の決定……」以下、まったく同じことが書かれている)、教員の完全服従を義務づけている。懲戒処分や分限処分について実に多くの規定を設け、上意下達で、同じ職務命令に3回従わなければ免職、人事評価で2回連続D評価(下位5%)だったら免職、等々、教職員(校長・副校長も含む)はぎゅうぎゅうに締め付けるという内容になっている。教育委員会についても、知事が定めた教育目標に従わなかったり懲戒・分限処分をすべきなのにこれを怠ったりしたら、教育委員は罷免される。要するに、知事が「こういう教育をせよ」と言ったら、教育委員会以下、校長、教員・職員まで、それに逆らうことは許されず、知事の意向に逆らう者はクビだ、という条例案なのである。

 これが教育にもっと民意を反映させるための措置だ、というのだから、本気でそう思っているのだとしたら、その感覚はとうてい正気とは思えない。教育にもっと民意を反映させるというのだったら、教育委員を公選制にするというのが本筋ではないのか。知事が任命するというやり方をそのままにしておいて、知事は民意を体現しているのだから知事の意向に従うことが民意に従うことだ、というのは、手前勝手もいいところである。教育委員を公選制にすれば、教育委員会も民意を体現しているということになるから、知事主導のトップダウンこそが民意に即した教育なのだという理屈は成り立たなくなる。なぜ教育委員の公選制という方向ではなく知事主導なのか。橋下「維新」がまともな政治集団なら、それに答えるべきだと思うが、いかがであろう。

 もう一つ、この条例案には、こんな規定がある。「この条例は、府の教育に関する最高規範である」(第48条)。さて、いったいこれはどういう意味なのか? まさか憲法より上とでもいうつもりなのか? 大阪には日本国憲法は適用されないとでも? それとも橋下さん、つぎは「大阪独立宣言」ですか?




 

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