法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

浦部法穂の憲法時評

 

秘密保全法制


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2011年10月20日

 政府は、外交や防衛などに関する国家機密の漏洩に対する罰則強化を図るための「秘密保全法案」を来年1月招集の通常国会に提出する方針を固めた、と伝えられる。外交などの場面での「国の存立にかかわる重要情報」を「特別秘密」に指定し、これを漏らした者に最高10年の懲役刑を科す、というようなことが考えられているようである。自民党政権下で、これまで何度も出された国家秘密法案やスパイ防止法案の再現であり、民主党も、「開かれた政府」などと言いながら、政権の座に座ると「隠せるものは隠したい」という欲求に駆られ、結局は自民党と何も変わらない体質だ、ということを私たちに見せつけたといえる。

 ことの発端は、昨年の尖閣諸島沖での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件で、それを写したビデオ映像を海上保安官がインターネット上で流したことにある。このビデオ流出に激怒した当時の仙谷官房長官が「政府における情報保全に関する検討委員会」を立ち上げ、そのもとに「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」を置いた。そして、今年の8月に「有識者会議」が「秘密保全法制を早急に整備すべきである」とする報告書を出した。「有識者会議」なるものは、ほとんどが「出来レース」であるから、こういう結論になるのは決まっていたことだが、ともかく、こういう形で「有識者」のお墨付きを得て、法案提出へと進んできたわけである。

 その「有識者会議」報告書は、筋書きどおりといえばそれまでだが、「我が国を取り巻く厳しい国際情勢の下で国及び国民の利益を守るためには、政府による秘密保全を徹底することが極めて重要」だとする。しかし、そこでいう「厳しい国際情勢」がいったい何を指しているのかさっぱり不明であるから、「きわめて重要」とする結論が何を根拠に出てきたものなのかも皆目わからない。わずかに理由らしいこととして書かれているのは、「外国情報機関等の情報収集活動により、情報が漏えいし、又はそのおそれが生じた事案が従来から発生している」ことと、「IT技術やネットワーク社会の進展に伴い、政府の保有する情報がネットワーク上に流出し、極めて短期間に世界規模で広がる事案が発生している」ということくらいであるが、それがはたして「厳しい国際情勢」といえるようなものなのだろうか。ともかく、報告書は、だから「我が国の利益を守り、国民の安全を確保するためには、政府が保有する重要な情報の漏えいを防止する制度を整備する必要がある」、「また、政府の政策判断が適切に行われるためには、政府部内や外国との間での相互信頼に基づく情報共有の促進が不可欠であり、そのためには、秘密保全に関する制度を法的基盤に基づく確固たるものとすることが重要である」といい、現行法制では不十分だから早急に法整備をせよ、というのである。

 一方、国民の「知る権利」については、同報告書は、秘密保全法制の対象となる「特別秘密」は国の安全等にかかわる情報であって、「知る権利」を具体化したものと考えられている情報公開法のもとでも開示対象とされる情報に該当しないのであるから、秘密保全法制が「知る権利」を害することはないし、国および国民の利益の確保のためにやむを得ないものであるから「知る権利」の重要性を前提としても合理性がある、という。しかし、たとえば、沖縄返還に際してのアメリカとの間での「密約」は、「核」にかかわる密約も巨額費用の肩代わり密約も、決して日本の「国および国民の利益」のためではなかった。そして、アメリカが密約の存在を裏づける文書を公開した後も、日本政府は「密約はないと」する姿勢を長らく崩そうとせず、あげくは文書を破棄して「ないものはないから出せない」と開き直っているのである。そういう情報隠しが、はたしていかなる意味で「国および国民の利益」につながるのであろうか。あるいは、尖閣諸島沖の事件のビデオ流出がどのような「国および国民の利益」を害したであろうか。時期や場面によっては、「国および国民の利益」のために秘匿すべき情報というものは、たしかに、まったくないわけではない。しかし、いま、さらに厳重に秘密保全を図らなければならない理由が、いったいどこにあるというのであろうか。

 「沖縄密約」にかかわる情報公開訴訟で、東京高裁は、密約があったことを認めつつ、外務省と財務省では文書を秘匿する意図が強く働き、国の調査で発見されなかったことを考えると、文書はすでに廃棄された可能性が高い、として、文書の開示と慰謝料の支払いを命じた一審判決を取り消し、文書不存在を理由に原告逆転敗訴の判決を言い渡した(9月29日)。情報公開といっても、国(役所)が出したくないと考える情報を勝手に廃棄してしまえばそれまで、ということを裁判所が認めたわけである。これでは、「隠すが勝ち」で、情報公開法があっても国民の「知る権利」は全然保障されない。日本の情報公開制度のそういう実態からすれば、国や役所の勝手な判断による文書廃棄などの情報隠しをさせないように情報公開制度を改良することが、何よりも求められているとすべきであろう。また、福島の原発事故では、政府や東電による情報隠しや情報操作が、国内のみならず海外でも大きな問題となっている。むしろ、そういう意図的な情報隠しや情報操作を禁止する(罰則も含めて)ということこそが、考えられてしかるべきである。そうでもしないと国民の「知る権利」は実際上全然保障されないというのが日本の現状であり、そういう現状のもとでの秘密保全法制は、「知る権利」の完全な抹殺につながることになろう。秘密保全法の成立を許してはならない。




 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]