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浦部法穂の憲法時評

 

税を考える


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2012年1月12日

謹賀新年
今年もよろしくお願いします。

 年末に民主党税調が、消費税を2014年4月に8%に引き上げ2015年10月には10%にするという案を了承した。自民党も、もともと、消費税率10%を唱えていたから、民主・自民の2大政党が基本的方向で一致したことになり、いよいよ消費税増税が現実化しそうな気配である。消費税に関しては、よく言われる「逆進性」の問題以外にも、いわゆる「益税」やら「輸出戻し税」やらで、企業が逆にそれで儲けている(たとえば、トヨタは、「輸出戻し税」として年間およそ2000億円もの還付金を受け取っており、輸出企業全体では還付金は年間2兆円にのぼるという)という問題や、それとは反対に、下請けの中小企業は消費税分を買い手である大企業に転嫁できずに、みずから負担せざるをえない場合が少なくなく、中小企業の経営を圧迫しているという問題など、制度的な欠陥も多い。税率アップの前に、こうした欠陥の是正が急務だと思うが、そうした声は、政財界からはもちろん聞こえてこないし、マスコミも、こうした問題があることを知らないのか、あるいは知っていて口をつぐんでいるのか、このところ「増税やむなし」論調ばかりが目につく。消費増税賛成か反対かだけに議論の焦点を絞ると、いろいろな問題がみえなくなってしまうから、注意が必要だと思う。

 さて、今回は、そういう個別具体の問題を考える前提として、そもそも税金とは何なのか、なぜ私たちは税金を納めなければならないのか、といったところを考えてみたいと思う。憲法は私たちに「納税の義務」を課している。憲法とは、本来は権力担当者に対する命令であって、憲法が私たち国民に何かを命ずるというのは、ごく例外的な場面である。その数少ない例外の一つが「納税」だということになる。税とは、簡単に言えば、国を運営していくための経費をまかなうために徴収される金銭であるから、憲法が国民に「納税の義務」を課しているということは、主権者であり憲法制定権者である国民が国を運営していくための経費をみんなで負担していこうと約束した、ということを意味する。そういう約束をした以上私たちは税金を納めなければならないということになるのだが、そういう約束をしたというのは、もちろんフィクションである。誰も、実際にそんな約束をした覚えはないはずだから。しかし、このフィクションが、税を、つまり国が個人の懐から強制的にお金を取り上げることを、正当化する根拠となるわけである。

 税の問題の難しさは、それが一人ひとりの現実的な「財布の中身」にかかわるだけに、このフィクションによる正当化に納得する人はほとんどいない、という点にある。それは、このフィクションの「フィクション性」が誰の目にも明白だということと、より根本的には、自分が税金として支払ったお金に見合う利益やサービスを享受しているという実感が多くの場合持てない、ということに起因していると思う。しかし、受益と負担を直接結びつけることのできない経費を賄うためのものが税金なのであり、それが税というものの特性なのだから、税負担に見合う受益を実感できないというのは仕方のないことである。国の役割の一番の基本は、私たちが安心して安全に暮らしていけるよう、そのためのいろいろな制度や仕組み・手段等(公的サービス)を整備し維持・運営していくことである。そのためにかかる費用が「国を運営していくための経費」の基本的なものだということになるが、そういう公的サービスは、それによって直接利益を受けた人の負担だけで維持・運営していくことは困難である(たとえば、警察や消防を想起すればわかりやすいと思う)。そうであれば、その経費はみんなで負担するしかないことになる。それが税金というものだということである。

 問題は、私たちが、「安心・安全」な生活のためにどこまでのことを国に求めるか、である。多くを求めれば多くの負担が必要となり、最小限を求めるなら負担も最小限になる、ということが一応は言える。だが、ここで注意しなければならないのは、税金を取られるということだけを考えていると、誰も好んで多くの税金を取られたいとは思わないから、負担は少なければ少ないほどいいということになるが、その結果ほんとうに必要な公的サービスも縮小され私たちの生活の「安心・安全」が脅かされることになりかねない、ということである。だから、私たちが目先の損得にとらわれずに先を見通す力を身につけ、そのうえで国にどこまでのことを求めるかを明確にすることが、きわめて重要である。目先の損得に訴えるデマゴーグにのせられ、市場原理主義と「小さな政府」論に「民意の支持」というお墨付きを与えてしまった結果、経済はガタガタ、雇用は崩壊、そのため税収は減少で国家財政も最悪、だから増税、といういまの状況を招いていることを、私たちは自覚すべきだと思う。

 震災復興は急がなければならない。そのためにお金がいる。少子高齢化で社会保障の改革・充実も急務だ。だが国家財政は借金で火の車。だから増税は避けられない。と言われる一方で、F35ステルス戦闘機を42機も買うという。F35の値段は1機あたり約99億円(2012年度ベース)で、2012年度予算案には4機分395億円とパイロット訓練用シミュレーターの整備費などとして205億円が計上されている。はたしてこんな戦闘機が必要なのか。これはほんの一例だが、そういう議論もほとんどなしに増税是か非かを議論しても、生産的な結論は何も出てこないと思う。




 

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