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浦部法穂の憲法時評

 

スカイマークの「サービスコンセプト」


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2012年6月21日

 スカイマークが5月中旬頃より機内の座席ポケットに置いた「サービスコンセプト」なる文書が物議を醸している。同社の機内におけるサービス方針を文書化したもので、従来からのサービス方針をとくに変更したわけではなく、ただ乗客に明示する必要があるとの判断で文書化し置いたものだとのことだが、その内容や表現があまりにも「過激」あるいは「高飛車」だというので、ネットやメディアでは賛否両論が飛び交っている。「客室乗務員は荷物収納の援助をしません」、「従来の航空会社のような丁寧な言葉遣いを客室乗務員に義務づけていません」、「客室乗務員のメイク、ヘアスタイル、ネイルアート、服装は自由にしています」、「客室乗務員の私語があってもそれに対する苦情は受け付けません」、「機内での苦情は一切受け付けません。ご理解いただけないお客様には退出いただきます。ご不満のあるお客様は『スカイマークお客様相談センター』あるいは『消費生活センター』等に連絡されますようお願いいたします」といったような内容のものだそうだ。この最後の「消費生活センター」云々が、消費者庁などから、自社への不満を公的機関に振り向けるのはけしからんと言われ、スカイマークはこの文書をいったん回収、6月15日から新たな「サービスコンセプト」を配備したようだが、「消費生活センター」のくだりを削除した以外、若干表現を穏やかにした部分はあるものの、内容は以前のものと変わらないということである。

 私自身は、スカイマークを利用したことはないし、これからも利用する気はないので、どうでもいいといえばどうでもいいことである。また一般的にいっても、「サービスなんかどうでもいい、安ければいい」と思う人には別に問題ではないし、「これじゃぁ乗る気にならない」と思う人はスカイマークを利用しなければいいだけの話だから、あれこれ言わなければならないような問題ではないのかもしれない。ただ、スカイマークは、安全上の問題でたびたび国交省の厳重注意を受けており、今年5月22日にも、安全上の支障を及ぼす事態が連続したとして国交省から厳重注意と改善計画提出の指示を受けたばかりで、もしも同社に安全軽視の体質があり、客室乗務員の私語にも文句を言うな、などの「サービス?コンセプト」がその体質と連なっているのだとしたら、どうでもいいではすまないであろうが…。それはともかく、この「サービスコンセプト」を見たときに私が最初に感じたことは、日本社会もここまで「欧米化」したか、ということであった。

 ヨーロッパやアメリカでは、「お客様は神様」は通用しない。店で何か買おうとしたとき、こちらが声をかけても店員が私用電話していて「ちょっと待って」と待たされたという類いの経験は、私も、ドイツやアメリカなどで何度かある。客の都合が最優先、何でも客の言うことはきかなければならない、のではなく、客も店員も対等なのである。だから、店員の側の都合も客は考慮しなければならないのであって、電話が終わるまで待つのは当然だ(店員にとってすごく重要な電話なのかもしれないのだから)、ということになるわけである。スカイマークの「サービスコンセプト」も、要するに「当社のフライトでは『お客様は神様』は通用しませんよ」と言っているのであって、同社の社長が日経新聞のインタビューに答えて「当社とお客様の関係は対等と社員に教えている」と語っているように(6月10日付)、まさに欧米的感覚から出ているものだといえる(もっとも、顧客に向けてこのような「高飛車」な文書を配布するというのは、「欧米的感覚」でもありえないことだと思うのだが…)。

 契約は対等な当事者間の自由な合意にもとづく、というのが近代法の基本原則である。だから、会社と顧客の関係は対等だというのは間違っていないし、お互いそういう意識をもつことも必要である。その基本原則は、欧米において発展し確立されてきたものであるが、最近では、そういう「対等な契約当事者」という意識は日本社会でもかなり浸透してきており、それが消費者の権利意識の高まりとして、消費者の権利擁護に大きな役割を果たしている。だから、そういう意味での日本社会の「欧米化」は必ずしも悪いことではない。むしろ必要なことだといえる。ただ、「対等な契約当事者」という考え方には、一つの重要な前提がある。それは、お互いに相手を尊重する、ということである。それを抜きにして「対等」ということが語られる場合、しばしば、お互いが自己の利益だけを主張するということになってしまい、とげとげしい社会が出現するだけになる。「お金を払っているんだから」というので手前勝手な理不尽な要求をする消費者に頭を悩ませている企業や商店も多いようだが、最近では教育の場でも、大学でさえ、そういう「消費者」が増えている。これはまさに、相手を尊重するという大前提を抜きにした「対等」意識の暴走といってよいだろう。他方、だからといって、そういういわゆる「クレーマー」対応のために、顧客の要求をすべてばっさり切り捨てるような文書を配ったスカイマークも、「対等」意識だけが前面に出て、相手を尊重するという大前提を忘れていたのではないかと思う。

 そもそも、お互いを尊重するというのが「対等」ということの意味だともいえるから、その前提を抜きにした「対等」意識は本物の「対等」意識ではない。先に、「欧米化」は悪いことではないし必要なことだと書いたが、本物の「対等」意識を欠いた「欧米化」なら、逆にそうならないほうがいいし目指すべきでもない。ここでも、私が折に触れて再三述べているように、「個人の尊重」という憲法の基底的原理の重要性が、浮かび上がってくるであろう。




 

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