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浦部法穂の憲法時評

 

「違憲状態」の国会


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2012年10月22日

 今月17日、最高裁大法廷は、2010年の参議院選挙の際の「1票の格差」が最大5倍だったことについて、「違憲状態」とする判断を示した。3人の裁判官が反対意見を書いているが、それは「合憲だ」という反対意見ではなく、「違憲とすべきだ」という反対意見であるから、最高裁のすべての裁判官が「違憲」もしくは「違憲状態」という判断を突きつけたことになる。衆議院については、昨年3月23日の大法廷判決が、2.3倍の格差があることをもって、やはり「違憲状態」との判断をしているから、これで、衆・参両院とも「違憲状態」であることが最高裁によって宣言されたことになる。つまり、国会全体が「違憲状態」ということであるから、これは異常事態・非常事態である。

 しかし、当の国会には、そんな切羽詰まった意識はまったくない。衆議院については、「違憲状態」と言われてからすでに1年半がたっているのに、定数是正の取り組みはまったく進んでいない。「近いうちに解散」と言いながら、そうでなくても1年後には任期切れを迎えるというのに、選挙制度や選挙区割りの抜本的見直しは議論の端緒にもついておらず、「0増5減」という小手先の弥縫策(にもならないと思うが…)すら実行できていない。そして、参議院についても、すでに2009年9月30日の大法廷判決が、結論は違憲ではないとしたものの、大きな不平等が存在する状態であって投票価値の格差の縮小が求められること、そしてそのためには現行選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることを指摘していた。しかし、国会は、「現行選挙制度の仕組み自体の見直し」はおろか、定数是正も先送りを重ね、来年の参議院選挙に向けた「4増4減」の、これまた小手先の弥縫策も、8月に法案が提出されたまま「塩づけ」状態にされている。

 今回の大法廷判決は、一向に動こうとしない国会に対する最高裁からの「最後通告」ともいえるものだと思う。多数意見が「参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い」とし、「(都道府県を)参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく、むしろ、都道府県を選挙区の単位として固定する結果、その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では、上記の仕組み自体を見直すことが必要になる」、「単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ(る必要がある)」と、相当に突っ込んだ判示をしているのは、そのあらわれであろう。「4増4減」などといった「せこい」手ではだめ(「4増4減」でも最大格差は1対4.75)、都道府県単位という考え方自体を捨てて選挙制度の抜本的改革を図れ、というメッセージである。だから、何もしないままならもちろん、「4増4減」程度でお茶を濁して来年の選挙に突入したとしたら、今度は「違憲状態」ではなく「違憲で選挙も無効」という判決が出されることも覚悟しなければなるまい。大橋裁判官の反対意見は、そうなったときにどうするか、その具体的方法を国会は考えておけ、とまで言っている。

 選挙制度や選挙区割り、定数配分など、国会議員の選挙に関わる問題について、最高裁によって「違憲」あるいは「違憲状態」と指摘されても国会がそれをなかなか改めようとしない理由は、はっきりしている。要するに、いまの制度で当選してきたいまの議員たちにとっては、いまのままが最善だからである。区割りや定数配分が変われば自分の「地盤」が大きく変動するか失われてしまうことになるから、次の選挙が非常に厳しくなる。まして、選挙制度の抜本改革となれば次は立候補すら難しくなるかもしれない。国会議員たちにとっての最大関心事は次の選挙で自分が当選すること(だけ!)だから、自分たちの「首」が危うくなるようなことはするはずがない。だから、国会に任せておいたのではいつまでたっても事は進まないのである。ただ、国会を「唯一の立法機関」とする憲法(41条)の規定上、国会以外の機関が区割りや定数配分を最終的に決めるという制度は立てにくい。とすれば、最高裁としても、いつまでも、「違憲状態」だが違憲とまではいえない、とか、「違憲」だが事情判決の法理で選挙は有効、とかといった生温い判決を繰り返すのではなく、バシッと「違憲・選挙無効」と言うべきである。

 最高裁が「選挙無効」の判決を出せば、「無効」とされた選挙区の選挙をやり直さなければならない。その場合、定数配分規定をそのままにして選挙をやり直しても、再び「違憲・選挙無効」とされるだけだから、国会は、再選挙のために、「違憲」とならないように定数配分規定を作り直すしかない。つまり、否が応でも国会は対応せざるをえなくなるのである。しかも、そのために国会に与えられる期日は長くない(公選法109条4号の場合の再選挙として行うなら40日以内)。「選挙無効」の判決が出されてからじたばたしても間に合わないのである。いまの国会議員の一人ひとりが、そういう切迫感をもっているとは思えないが、いったいどうするつもりでいるのだろうか。これも国会に任せておいては進まない、ということなら、選挙無効の判決を出すときに、裁判所が当該選挙区の定数を仮の定数として決めたうえで選挙のやり直しを命ずる(一種の仮命令)ということも、考えるべきではないかと思う。

 冒頭に述べたように、衆議院も参議院も、国会全体が「違憲状態」というのは、まさしく非常事態である。たしかに、法的には、「違憲状態」であっても国会が決めた法律は法律として通用する。法的な効力ということでいうかぎり、「違憲状態」の定数配分規定によって構成された国会だからその国会が決めた法律は無効だ、ということになるわけではない。また、一歩進んで「違憲・選挙無効」という判決が出された場合でも、「選挙無効」の効力は当該訴訟の対象となった選挙区以外には及ばない(「無効」になるのはその選挙区だけ)という考え方をとれば(最高裁は、おそらくこの考え方をとると思う)、やはり同じである。だが、法的にはそうだとしても、国会全体が「違憲状態」あるいは「違憲」だということになれば、そんな国会が決めたことの正当性は大きく傷つく。いま、国会では、衆議院の解散時期を明示せよ・しないと、もっぱらそれだけをめぐってゴタゴタしているが、「違憲状態」の解消にはまったく手をつけないでそんな政争にうつつを抜かしている議員たちは、正当性に大きな傷を抱えた政治を、いつまで続けられると思っているのであろうか。



 

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