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浦部法穂の憲法時評

 

「日本転落」・自滅の道


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2012年12月20日

 12月16日の衆議院総選挙は、事前のマスコミ予想のとおりの結果に終わった。7年前そして3年前とまったく同じく、日本の国民は、またしてもマスコミが作った流れに素直に従い、みんなが一斉にその方向を向いたのだった。こういう「右向け右」体質が染みついてしまっている国民性を前提とするかぎり、小選挙区制という選挙制度は、選挙のたびごとに大きな「振り子現象」を生じさせ、それゆえポピュリズムに走る政治家・政党をのさばらせ、政治の劣化をもたらすだけの制度となろう。小選挙区制は「日本的体質」に合っていないといわざるをえない。

 今回の選挙では、連立を組むであろう自民党と公明党をあわせて325議席、衆議院の3分の2以上の議席を占めることとなった。つまり、かりに参議院で法案が否決されても衆議院で再議決することによって法案を通すことができる数に達した、ということであり、要するに政権与党はどんな法案でも通すことができる、ということである。どんなことでも与党の思いどおりにできるというのは、民主主義のプロセスを崩壊させるものだといわざるをえないから、それはそれで重大な問題をはらんでいる。だが、それ以上に、今回の選挙結果で重大なことは、先月のこの欄で危惧したとおりに、右翼・極右勢力が衆議院の圧倒的多数を占めるに至ったことである。自民党294、日本維新の会54、みんなの党18、これを合わせると366で、衆議院の総議席の76%を占める。3分の2どころか4分の3以上が、保守という以上の「右翼」勢力によって占められた、ということである。このように極端に「右」に傾いてしまった国会を背景に、政権に返り咲く安倍自民党がいったい何をしでかすか。そのシナリオは、前回のこの欄に書いたとおりの「日本転落」のシナリオでしかないと思う。国民は、おそらくそんな自覚もないままに、この「日本転落」の自滅の道を選んだのである。

 と言っても、多くの国民は、まさかそんなことになるはずはないと思い、あるいはなんらかひどい目に遭うことがあったとしても「仕方ない」といって受け入れ、受け入れられないほどにひどい目に遭ってさえ1年か2年もすれば忘れ去ってしまうのであろう。あの大震災と原発事故からまだ2年も経っていないのに、そして原発施設の真下に活断層があるという疑いが新たに出されているというのに、「脱(卒)原発」を訴えた政党や候補者は軒並み惨敗したということが、この推測の裏付けになろう。「脱原発」派は、わずか20議席、民主党を含めるとしても77議席で、あれだけの事故を起こした国の、事故から2年にも満たない時期の選挙結果としては、まともな思考では理解しがたい数字である。いったい、この国の国民は何を基準に選択したのであろうか。みずからの選択行動が自分に何をもたらすかを深く考えることもせず、何となく自民党に、何となく「維新」に、入れた結果が、これなのだろう。おそらく、自分自身や自分の家族が直接命の危険にさらされるくらいのひどい目に遭わなければ、今回の選択が自滅の道につながっていたと気づくことはないのだろうと思う。

 そこで、この際、安倍新首相に提案したい。以下は、安倍氏への提案。

《安倍さん、いっそのこと、この際兵役義務を導入してはどうですか?18歳以上の男子国民は全員、35歳になるまでの間に2年間、兵役に就くことを義務づけるのです。集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊を国防軍とするだけでは、中国に対抗して領土を守り抜くには不十分でしょう。数的にも兵力増強が必要となるはずです。それには徴兵制しかありません。もちろん、徴兵制は憲法違反です。でも、集団的自衛権について政府の憲法解釈を変更すれば行使可能だというのなら、徴兵制だって政府が違憲でないと解釈すれば導入可能だという理屈になるはずです。徴兵制が違憲でないという屁理屈は、官僚に考えさせればいくらでも出てくると思いますよ。
 「護憲派」の私がこんなことを言うのはおかしいとお思いでしょう。たしかにおかしな話です。まぁ、この提案は、「護憲派」の私の究極の「賭け」と考えていただければいいでしょう。兵役義務によって実際に戦場に立たされ、命の危険を身をもって実感すれば、さすがに、憲法など考えたこともない日本国民も、平和主義を掲げる憲法の重要性と現実性を、まさに自分のこととして体で理解できるのではないか、と思うからです。逆に言えば、日本国民は、それくらいの経験をしないと、憲法の存在とその重要性に気づかないのかもしれないと思うのです。だから、兵役義務を課しても、富士山の麓で訓練しているだけでは意味がありません。集団的自衛権でもPKOでも多国籍軍でも、どんどん戦地に人を送り込むのです。そういう「目に見える国際貢献」は、あなたが是非やりたいと思っていることですよね。自衛隊員だけでなく一般の若者も送り込めばいいのです。そうしなければ、国民が戦争の愚かさや悲惨さを実感することもできないでしょうから。
 ただ、こう提案しながら、私は一抹の不安を感じています。たいていのことは妥協し受け入れ許してしまう。そして、どんなにひどい目に遭っても1年か2年も経てば忘れてしまう。日本の国民はそういう「特技」をもっています。だから、戦場に送られて命の危険にさらされても、あるいは家族が命を落とすことになったとしても、国民は、それを仕方がないこととして受け入れ、あるいはすぐに忘れてしまって、憲法の重要性に思い至らないままになるのではないか、という不安は拭えません。そうなったら、軍事国家化だけが進行して終わり、ということになってしまいますから、私の意図とはまったく逆の方向に進むことになります。だから「賭け」だと言ったのです。もしこの「賭け」に負けたら、私としてはもはや口をつぐむしかないですね。》

 以上は、言ってみれば「悪い冗談」だが、もしも来年の参議院選挙で自民党と「維新」などが今回と同じような躍進を遂げれば、「冗談」ではすまなくなると思う。65年余の間まがりなりにも維持してきた「戦争をしない国」の行き方が続けられるのか、それとも「戦争する国」へと転換するのか。この先半年あまりが、それを決する正念場となろう。



 

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