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浦部法穂の憲法時評

 

「政権交代」という幻想


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2013年7月25日

 7月21日に行われた参議院議員選挙は、事前のマスコミ予想どおりに自民党が圧勝、そして自・公の与党が過半数を超え安定多数を占めることになった。一方、民主党は壊滅的な敗北で、立ち直りも困難視される状況である。まるで、20年前の社会党と同じである。自民党以外の最大野党が政権の座についたら国民に見限られて消滅していき、結局残るは自民党だけ、というのが、どうも日本政治の本質的な体質のようである。だとしたら、「政権交代」による民主政治の活性化など、幻想に過ぎないこととなる。そんな幻想をいつまでも抱き続けていたら、日本の政治は劣化するばかりであろう。2009年に民主党が政権を取ったのも、形だけの「政権交代」で何かしら政治がよくなるのではないかという幻想を多くの国民が抱いた結果であった。民主党は、ある意味、そういう国民の幻想の中でのみ棲息しえた政党だったのである。しかし、「政権」は代わっても政治の中身は全然変わらず、幻想は打ち破られた。民主党の棲息の場がなくなったのである。だから、民主党が生き残れないのは当然といえば当然なのである。

 なぜ、自民党以外の政党は一度政権を取ったらあとは消滅するだけ、ということになってしまうのか。自民党以外の政党がだらしないからなのか。そういう側面がまったくないとはいえないだろう。だが、私は、根本的な原因は憲法軽視の政治がずっと続いてきたことにあると考える。政治において一番その基礎とされなければならないのは、憲法である。だから、どの党派も憲法という共通の土台の上にそれぞれの政策を構築するというのが、本来の政治の姿でなければならない。それが立憲政治といわれるものである。この立憲政治が機能しているかぎり、どの党派が政権を取っても土台は共通で動かす必要はないことになる。しかし、憲法という土台を逸脱する政治が行われてきた場合には、どうか。そこには憲法とはちがう別の土台が作られてしまい、どの党派も基礎とすべき共通の土台というものは存在しないことになってしまう。だから、政権交代で新たに政権についた党派は、自分たちの主義主張を実現するために、それまで行われてきた政治の土台ごと壊して新たに土台から作り直すか、それとも自分たちの主義主張の完全な実現はあきらめて、従前の政権が築いた土台を引き継ぐか、そのどちらかの道を選ばざるをえないことになる。前者の道は途方もない労力と時間を要するであろう。2年や3年では何もできないかもしれない。となると、後者の道を選んで1つ2つ前政権とは違う成果を挙げたほうが政権の維持のためには得策だ、という判断に傾くことになりやすい。そうなれば、しかし、前政権と何も変わらないじゃないかということになって、国民の失望を招くことになる。

 というのが、これまでの「政権交代」の筋書きだったような気がする。もっとも、民主党がこれに完全に当てはまるのかどうかは、わからない。民主党という党は、主義主張という面では雑多な人々の寄り集まりで、自民党的土台の上にものを考える人も少なくないから。ただ、最初、鳩山首相が普天間移設を「最低でも県外」とぶち上げたものの結局辺野古に戻り、最後、野田政権は自民党とほとんどまったく変わらない政治に舞い戻ったことをみると、民主党なりに自分たちの土台を作ろうとしたものの、それが簡単なことではないと知り、結局自民党が作った土台に乗っかってしまったというようにもみえる。

 それより典型的なのは、20年前の社会党であろう。社会党は、政権についたときに、自衛隊合憲論に転換した。安保・自衛隊は違憲だとするそれまで貫いてきた主義主張を引っ込めて、自民党が作った従前の土台を引き継いだのである。ただ、社会党が政権についたといっても自民党との連立で村山富市氏が首相になったのだから、自民党的土台を引き継ぐことは最初から決まっていたことなのだが、これが、社会党壊滅の引き金になったことはまちがいないと思う。かりに、もし社会党が自民党との連立ではなく政権を取ったのであったらどうなっていただろうか。安保・自衛隊は違憲だとする主義主張を貫くことができたであろうか。日米安保条約は、どちらか一方が相手方に終了の意思を通告すればその1年後に終了することになっているから(第10条)、アメリカに終了通告すればいいだけである。自衛隊は、自衛隊法等を廃止して解散すればいい。私も、そうすべきものだと考える。しかし、それは短兵急にできるものではない。それが可能となるような、つまり、アメリカやその他の国々と危機的な対立や摩擦を起こさないでそうすることができるような、そういう環境を整えたうえではじめてできることだと思う。おそらくそれは、十分な外交能力をもってしても、10年単位の時間を必要とする作業となろう。かつての社会党に、それだけの力と時間はなかった。だから、政権についたときには、安保・自衛隊は違憲という主義主張を引っ込めざるをえなかったのである。自民党との連立でなかったとしても、たぶん同じことになったと思う。

 あまりにも長い間、憲法を逸脱した土台の上に行われてきた政治。それを憲法という土台の上に戻し作り直すのは、簡単なことではない。たまさかの政権交代でできるようなことではないのである。逆に言えば、政権交代があっても土台はそのままということにならざるをえない、ということである。だから、政権交代ということを追求すればするほど、憲法的価値の実現をめざす党派は、ますます脇へ追いやられる結果となってしまうのである。自民党が作ってきた土台も、自民党政権が日本国憲法のもとでの政権であるかぎり、一部は憲法の土台と重なり合っている。その右側に大きく逸脱する形で土台が作られ、憲法と重なっている土台の上の構築物はどんどん「減築」し、右側に逸脱した土台の上にますます積み上げていっている、というのが、いまの政治だといえる。そして、憲法と重なっている土台の部分は、「もう古くなったから」というので土台ごと取り壊し、右側の土台のさらに右側に新たに「増築」して、日本国憲法とは完全に切り離された土台を作り上げようというのが、「改憲」の動きなのである。

 こういう状況の中で必要なことは、憲法という土台を基礎とする政治を追求する党派、前回述べた「本物の野党」が、政治に一定の現実的影響力をもつ程度の議席数(衆・参それぞれ3分の1程度)をもち、憲法を逸脱した土台の上の構築物の積み上げを許さず、憲法と重なる土台の上へのさらなる積み上げを要求し、それを一つ一つ勝ち取っていくことだと思う。政権獲得をめざす必要はないし、性急にそうすべきでもない。そういう一つ一つの積み上げの結果として、憲法から逸脱する土台を徐々に解体し、憲法と重なる土台のほうを少しずつ「増築」していって、やがて土台がすべて憲法と重なる形にできれば理想的だが、いまの段階でその理想像が現実的なものとして見えなくても構わない。逆に、理想論に過ぎないといってあきらめてしまってはダメである。半永久的に「3分の1の抵抗勢力」であったとしても、それがないよりは、はるかにマシなのだから。そして私たちも、「政権交代が必要だ」という、善意ではあるが幻想に過ぎない言説に惑わされず、「政権交代可能な野党」よりも「3分の1の抵抗勢力」を選び育てることに、力を注ぐべきではないかと思う。



 

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