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浦部法穂の憲法時評

 

特定秘密保護法


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2013年12月9日

 「特定秘密保護法」というとんでもない法律が、なぜいまこれが必要なのかの説明さえまったくないままに、与党の強行採決で成立してしまった。こんな法律を作るということは、昨年の衆議院選でも今年の参議院選でも、誰からも、どの政党からも、まったく語られていなかった。唐突に提出され、そして強行採決である。パブリックコメントも通常よりも短期間で締め切られ、しかしそれでも、寄せられたパブリックコメントの77%が法案に反対する意見であったという。また、衆議院採決の前日に行われた福島での地方公聴会では、自民党が推薦した人を含めて全員が反対意見を述べた。国民の法案反対の声も、日に日に高まってきていた。そういう「民意」にはまったく知らんぷりで、野党の抵抗もどこ吹く風とばかりに、「民主国家では今世紀最悪」(アメリカの有識者の指摘として朝日新聞が報じたところ)の法律は強行可決されたのである。自民党の石破幹事長は、法案反対のデモを「テロと本質的に変わらない」とまで言った。テロに関する情報はこの法律の「特定秘密」の対象になっているから、デモ規制にかかわる情報も「特定秘密」だということになるのだろう。衆参両院で圧倒的多数を占め、そして向こう3年間は選挙を気にする必要はない、という状況で、数を頼みに何でもやりたい放題の政治は、いよいよ牙をむき出しにしてきた。

 新聞等は、また民主党なども、この「特定秘密保護法」を、官僚による情報隠しのための法律だ、として批判している。そういう面はたしかにある。だが、この法律は、すでにこれに先立って成立した国家安全保障会議(「日本版NSC」)設置法、年末にも閣議決定されるであろう武器禁輸原則撤廃、来年には強行するとみられる集団的自衛権の「解禁」、そのうちにきっと設けるべきだと叫ばれるであろう「日本版CIA(または"007"の英国SIS)」創設などと一体のものであり、安倍政権がめざす「戦争できる国・する国」へのワンステップである。だから、官僚のための法律というよりも「右翼の軍国主義者」たちのための法律というべきものだと、私は思う。「日本版NSC」のほうには民主党も賛成したし、「特定秘密」では反対の論陣を明確にしている新聞も「日本版NSC」にはほとんど無批判だった。これでは、この法律の「本質」を見抜くことはできないと思う。

 安倍政権が「特定秘密保護法」をごり押しで成立させたのは、「日本版NSC」の活動を効果的なものにするためには、アメリカ(あるいは、イギリスも)から情報をもらいやすくする環境を整える必要がある、ということからである。アメリカのCIAやイギリスのSISといった情報・諜報機関が収集した情報をスムースに提供してもらうためには、秘密保全が絶対条件であり、また、日本からも国内でガタガタ批判を受けずに秘密裏にアメリカなどに情報提供できるようにしなければならない、というわけである。とくに、集団的自衛権を行使するということになれば、アメリカとの情報共有が不可欠であり、また、アメリカとの共同軍事行動について日本国内で反対論が吹き出して円滑に行かなくなるようなことは絶対避けられなければならない。そのためには徹底的な秘密保全が必要だ。安倍政権が思い描いているのは、こういうストーリーであろう。

 しかし、いくら秘密保全に万全を期したとしても、それでアメリカなどがいまより多くの情報を提供してくれるようになるなどと考えるのは、馬鹿げている。アメリカが日本に提供する情報は、アメリカにとって都合の良い情報、つまり、アメリカの都合に合わせて日本を動かすための情報だけである。アメリカにとって不都合な情報は、日本には必要な情報であったとしても、それをアメリカが日本に提供してくれるなどということは100%ありえない。そのうえ、アメリカのCIAは、アメリカの利益のために、あるいはアメリカの特定の政治勢力の利益のために、ときにはウソの情報をでっち上げて流すことさえする。「フセイン政権が大量破壊兵器をもっている」というウソの情報でイラク開戦の口実を作ったように。そういう、もっぱらアメリカに都合の良い情報だけを頼りに、しかもときには世論操作のためのウソさえも含まれる情報を頼りに、日本はアメリカと一緒になって軍事行動することになるわけである。つまりは、軍事面でもアメリカの意のままに動く。アメリカのためにどこへでも出かけていって前線で戦う。「日本版NSC」、特定秘密保護法、そして集団的自衛権の帰結は、そういう日本になることである。そして、そのうち、情報収集自体についても、一定の範囲で日本に「肩代わり」が要求されるだろうことは、容易に想定される。そのときには、「右翼の軍国主義者」たちは、「日本版CIA」の創設を叫ぶことになるだろう。実際、安倍首相は国会答弁で、「特定秘密保護法をつくる以上、特定秘密にあたるような情報を収集する能力をもたなければ意味がない」とまで言っている。

 もう一つは、武器禁輸原則の撤廃である。これと「特定秘密保護法」が結びつくことで、どんな兵器をどこに売ったか、どんな軍事技術をどんな兵器開発のためにどこに提供したかなどのことは、すべて秘密にされることとなる。国民の目からは完全に隔絶されたところで日本の軍需産業はどんどん肥大化していくこととなろう。そして、国民の知らぬ間に、日本は最新鋭の兵器を保有する軍事大国になって行くであろう。

かくして、「改憲」を待たずに日本国憲法は実質的に廃棄されることとなろう。「ナチスの手口を真似たらどうか」という麻生副総理の発言は、失言でも何でもなかったのである。そのとおりのことを、いま、安倍政権は進めているのだから。

 中国が一方的に防空識別圏を設定したとして、またまた「中国の脅威」が声高に言われる。日本自身は、とうの昔に防空識別圏を設定しているのに、これをもってことさらに「中国の脅威」を言うのは、世論操作以外のなにものでもなかろう。それは置くとして、日本政府は、中国の防空識別圏設定を認めないという立場から、JALやANAに対して中国側の飛行計画提出要求に従わないよう指示した。しかし、アメリカ政府は、同様に防空識別圏設定を認めないとしながらも、民間航空会社に対しては中国政府の求めに応じ飛行計画を提出するよう促した。韓国政府も、民間航空会社が中国に飛行計画を提出することは認める姿勢に転じた。いずれも、乗客の安全確保の観点から、こうした対応をとったのである。日本だけが民間航空会社にも飛行計画を提出するなと言っている。乗客の安全より国としての立場を重視した対応である。安倍首相と自民党は、「特定秘密保護法」について、「国と国民の安全を確保する」ことを目的とするものだという(自民党HPの「Q&A」参照)。が、「国民の安全」は、彼らにとっては、2番目に挙げられているとおりに、やはり二の次でしかないのだ。



 

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