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浦部法穂の「大人のための憲法理論入門」

 

第12回 社会保障を考える(1)


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2015年9月7日

 本年6月の厚労省発表によれば、生活保護の受給者数が2015年3月時点で217万4331人(世帯数で162万2458世帯)と、過去最多を更新したという。そのうち、約半数は高齢者世帯である。日本の生活保護受給者数は1995年前後の約88万人(世帯数では約60万世帯)を底に、以後ずっと増え続け、この20年間で2.5倍という「急傾斜」の増加をみせている(下図=「第17回社会保障審議会生活保護基準部会(2014年5月16日)参考資料」より=参照)。20年前には「生活保護の役割は終わった」とさえ言われもしたのに、「終わる」どころか、それに頼らざるを得ない人がますます増えているのである。しかも、日本の生活保護の「補足率」(生活保護基準以下で生活している人のうち実際に生活保護を受けている人の割合)は、せいぜい20%程度、厚労省の調査でも32%ほどと推計されているから、500万〜800万人もの人が生活保護も受けられずに困窮状態に放置されていることになる。


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 そうした状況のなか、安倍政権は2013年以降数回にわたって生活保護基準を引き下げるとともに、2013年12月には生活保護法を改正して、保護申請の際には住所・氏名・申請理由・資産・収入状況などを記載した申請書を提出すべきことを新たに規定し(24条1項)、また、扶養義務者への通知(同条8項)のほか、申請書及び添付書類の内容調査のため扶養義務者に対して報告を求めることができること(28条2項)、申請者やその扶養義務者の資産・収入状況について官公署・日本年金機構・共済組合等や銀行・雇い主などに必要な情報の報告を求めることができること(29条)などを定めた。

 これらの改正は、生活保護の申請じたいを抑制しようとする意図が見え見えのものである。申請書の提出は当然のことのように見えるが、その申請書は、役所に行けばポンと置いてあって誰でも取ってこれるというような運用にはなっていない。だから、まず窓口に行って申請書をもらわなければならないのだが、その際にあれこれと事細かく事情を聞かれ、「そういう事情では保護は無理だから」というので申請書すらもらえない、ということにもなりかねない。いままでも、本来違法だとされながら地域によっては窓口で実際に行われてきたいわゆる「水際作戦」、つまり保護申請じたいをさせないようにして食い止めるというやり方を合法化するための改正だとさえ言える。また、扶養義務者への通知とか報告を求めるとかは、生活保護の前に扶養義務を果たすべきだとする考え方に立つものであり、現憲法下の社会保障・社会福祉制度のあり方を根元から変えてしまうものだといわなければならない。それだけでなく、たとえばDVで別れて所在を知られたくない相手が生活保護申請をしたら居場所が知られてしまうとか、逆に、親族に迷惑がかかることを恐れて生活に困窮していても保護申請をためらう、などといった「実害」も発生することになろう。

 こうした生活保護制度の「改悪」を許した背景には、某有名芸能人の母親が生活保護を受けているというゴシップ報道をきっかけにマス・メディアと自民党などの保守政治家がこぞって煽り立て、国民のあいだに広がった「生活保護バッシング」がある(これについては、2012年6月7日付『憲法時評』参照)。これは要するに、日本においては、生活保護あるいは社会福祉・社会保障というものについて、ひいては憲法における生存権保障の意味について、国民の理解がなお不十分だということを意味する。だから、国の財政赤字がますます深刻化するなか、軍事費は増やしたい、大企業の利益のための減税はしなければならない、だから社会保障費は削れるだけ削りたい、と考える保守勢力の「煽動」に、メディアも国民も、いとも簡単に乗せられてしまうのである。

 ことは生活保護だけではない。年金制度の将来に不安をもつ若者の、その不安のはけ口を高齢者に向かわせ、「いまの高齢者は若者の負担で楽をしている」といった論調で「世代間格差」を言い立てる、なども同様である。そういうように「若者対高齢者」という対立図式をつくることによって国民を分断し、年金額の削減がいま進められているのである。先に述べたように、生活保護受給世帯の約半数が高齢者世帯であるという現実は、老齢年金の制度じたいが十分に機能していないことを意味するものであり、年金額の一律削減はとうてい正当化できるものではないはずなのに、である。そしてまた、こうした現実のなかで親族の扶養義務を強調することは、生活困窮に陥った老親を子どもが養っていかなければならないということを意味するのであり、結局は、若年層の負担をいっそう重くすることになるのに、である。

 そこで、この連載では、次回以降数回にわたって、社会保障について少し詳しく考えてみたいと思う。



 

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