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浦部法穂の「大人のための憲法理論入門」

 

第13回 社会保障を考える(2)〜社会保障とはなにか


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2015年10月2日

 社会保障とはなにかについては、人によって様々な理解があるが、定義的にいえば「最低生活の維持を目的として国民所得の再分配機能を利用し、国家が全ての国民に最低生活の確保をさせる政策をいう」といえる。つまり、国がすべての国民に最低水準の生活を保障する、それを所得の再分配機能を利用して行う、そういう政策が社会保障だということになる。保障される最低水準の生活の基準が、国により時代によって異なるのは、当然のことであるが、それは少なくとも労働力の再生産が可能な水準でなければならない。つまり、ただ単に食べていければいいというのではなく、持続的に働いていけることが保障されるような水準でなければならない。食べるものはあるけれども命をつないでいくのがやっと、というのでは最低水準を満たしたことにはならない、ということである。

 社会保障の内容は、国際労働機関の考え方によれば、所得保障と医療保障が2本の柱であるとされ、所得保障には、直接お金を渡して所得を保障する政策と、雇用を保障する政策が含まれるといわれている。こうした意味での社会保障という言葉が最初に現れたのは、1935年のアメリカの社会保障法(Social Security Act)で、その後各国で一般的な用語となり、第二次大戦後世界各国で急速に広がっていった。

 日本で最初に社会保障をきちんと定義づけたのは、1950年の社会保障制度審議会の勧告であった。そこでは、「社会保障制度とは、疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業、多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいう」と定義づけられた。ここでは、社会保障制度は、社会保険、社会福祉、公的扶助、公衆衛生という4つの部門から成り立つものとされ、この答申に沿って日本の社会保障制度が組み立てられることになったのである。これは憲法25条第2項が「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めていることに、ほぼ対応する考え方だといえる。

 ここで言われる、社会保険、社会福祉、公的扶助、公衆衛生のそれぞれの内容を確認しておくと、まず、社会保険というのは、たとえば病気であるとか、死亡、災害、失業、老齢といったような事故に備えて生活保障を図るための公的保険のことで、強制保険である。具体的には健康保険、労災保険、雇用保険、年金などの公的保険制度である。

 社会福祉は、しばしば社会保障と同じ意味で使われることがあるが、ここでいわれる社会福祉というのは、特に生活困窮者、障害者、身寄りのない子ども、あるいは要介護老人など、いわゆる社会的弱者の救済、援護を図る制度である。具体的な法制度としては、生活保護法、児童福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法といった法律がある。また、公的な福祉以外にも、民間の社会福祉法人による様々な事業も、ここにいう社会福祉に含まれる。

 公的扶助は、生活困窮者に対して国が直接に生活保障のための給付を行う制度で、生活保護がこれにあたる。生活保護は社会福祉の一つであるが、国が直接生活保障のための生活資金を個人に給付する制度であるという点で、独立して扱われることが多い。

 公衆衛生は、公私の諸機関による組織的な活動によって国民の健康を保持・増進させる活動のことである。たとえば母子保健、伝染病予防、精神衛生、食品衛生、労働衛生、上下水道、等々の事業である。これには公的機関によるもの、私的機関によるものの両方が含まれる。

 これらはいずれも、すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する(憲法25条)ための制度であり、現代国家の中心的な義務である。これら社会保障の制度は、いわゆる「弱者」のための制度というだけではなく、誰もがどんな状況になっても「最低生活」を営めるようにするための制度である。社会保障とか社会福祉というと、恵まれない人のための制度だと理解する向きも多いが、そうではない。すべての人の生活の安全を守るための制度なのである。病気になった途端に生活に困る、生きていけなくなる、というようなことでは安心して生活できない。病気になっても保険で治すことができる、あるいは病気になって働けない間も所得の保障がなされ、「最低生活」だけは保障される、ということでないと、私たちは安心して暮らせない。このような意味で、社会保障制度は、まさに私たちの生活の安全を守るための必須条件ということがいえるのである。社会保障がSocial Securityと言われるゆえんである。Securityつまり「安全保障」である。そこには人々の生活の安全を守るという意味合いがあるのである。だからこそ、生存権(憲法25条)がすべての人の「基本的人権」とされるのである。「集団的自衛権」や「後方支援」や「駆けつけ警護」やで自衛隊の活動を広げ「戦争できる国」になることが「安全保障」ではない。社会保障がきちんと整っていること、それこそが私たちにとっての「安全保障」なのである。



 

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