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浦部法穂の「大人のための憲法理論入門」

 

第19回 「一票の格差」と「地域格差」


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2016年4月5日

 今夏行われる参議院議員選挙の選挙区選挙では、島根県と鳥取県、高知県と徳島県が「合区」され、都道府県単位の選挙区という従来の選挙区割りがはじめて変更されることとなる。人口の少ない上記4県をそれぞれ隣の県とくっつけて、いわゆる「一票の格差」是正を図ろうとしたわけであるが、2012年の最高裁判決が「都道府県を選挙区単位とする方式を見直すべきだ」としたことにも応える形になった。とは言っても、この「合区」を含む「10増10減」の定数見直しでもなお最大3倍程度の格差が残り、参議院選挙における「一票の格差」問題がこれで解決するわけではない。加えて、「合区」の決定が国会での十分な議論もないまま、そして地方公聴会もなしで該当4県の住民たちの意見を聞くこともなく、なされたことから、「合区」される県からは「地域から選出される議員がいなくなって自分たちの声が届けられなくなる」といった不安や批判の声が多く聞かれる。

 たしかに、地元から議員を出せないということになれば、自分たちの声が国政に届かなくなる、自分たちは国から無視されることになるのではないか、といった不安・不満が出てくることは、十分に理解できる。人口数に比例して「一票の格差」をなくしていこうとすれば、必然的に、人口の多い大都市地域から選出される議員が多くなり、「田舎」、過疎地のことを知らない議員が大多数になって、その結果「田舎」がかかえる問題が国政の場では顧みられないことになってしまう、という可能性は、大いにありそうなことに見える。「一票の格差」是正で、政治が首都圏その他の大都市圏の方ばかりを向いて「田舎」のことを顧みなくなったなら、「東京−地方」の「地域間格差」は、ますます広がっていくことになろう。「一票の格差」はなくなっても、それによって「地域の格差」がどんどん大きくなっていくようなら、決して「平等」が実現された状態とは言いえない。

 だったら、「一票の格差」のほうには少々目をつむって、人口過疎の地域の声も届くように、それらの地域に配慮した選挙区割り(定数配分)にすべきだ、ということになるのか?答えはしかし、「否」である。なぜか?国会議員は選挙区の代表ではなく「全国民の代表」(憲法43条)だからである。選挙区単位で選出されても、議員はその選挙区の代表ではなく、「全国民」の代表なのである。私たちが国会議員の選挙で選ぶのは、各自が住んでいるその地域の代表ではなく「全国民」の代表なのである。国会議員を選ぶ私たちの権利(選挙権)は、地元の利害の代弁者を選ぶ権利ではないのである。だから、全国民の選挙権が等しく扱われなければならないのである。ある人々にだけ2票以上の投票権を与えるとか、あるいは、ある人々については1票を1/2票として計算するとか、といったことが選挙権の平等に反することは、容易に理解されると思う。同様に、たとえば人口10万人のA選挙区と人口5万人のB選挙区で選出される「全国民の代表」はともに1人、という場合、「全国民の代表」を選ぶ各人の権利の価値は、A選挙区については10万分の1であるのに対し、B選挙区では5万分の1となり、A選挙区の人々はB選挙区の人々と比べて1/2の価値の権利しか認められていない、ということになる。これが選挙権の平等に反することは、やはり容易に理解されるであろう。

 「全国民の代表」ではなく「地域の代表」を選ぶ権利の問題であったのなら、上記の例のA選挙区とB選挙区との「格差」は、必ずしも問題にならない。「地域の代表」を選ぶということなら、むしろ、人口数にかかわりなく各「地域」から同数の議員が選出されるということのほうが、代表選出の平等という意味において平等原則に適うといえよう。しかし、日本国憲法は、衆議院についても参議院についても、ともに「全国民の代表」によって構成されるものとし、「地域の代表」という要素はどちらの院にも持たせていない。そうである以上、選挙区間の「一票の格差」が生じないような(限りなく格差「ゼロ」になるように)選挙区割りをすべきであり、参議院における「合区」もやむをえないものとしなければならない(ただし、なぜ鳥取+島根、徳島+高知なのか。今回の「合区」については、そこのところが十分に議論もされず、また国民への説明もほとんどなかったという点において、問題の残る措置であったといわなければならない)。

 そうはいっても、しかし、ほとんど選挙のことしか頭にない国会議員たちは、自分の選挙区へ「おみやげ」を持っていくことばかりを考えていて「全国民」のことなど考えていない。そんな議員を選ぶ国民のほうも、「全国民」ではなく自分たちの利益になるものを持ってきてくれることを議員に期待する。そういう「現実」のもとでは、先に述べたように、「一票の格差」はなくなっても「地域の格差」は広がるばかり、ということになりかねない。「全国民の代表」なんていうのは憲法の掲げる「たてまえ」に過ぎないのであって「現実」はそれにはほど遠いのかもしれない。だから……、というので、ここで再び「地域格差」是正のためには「一票の格差」もある程度はやむをえない、という声が聞こえてきそうだが、それは本末転倒である。まずは、国会議員は地域の代表ではなく「全国民の代表」であるという意識を、国会議員も国民もきちんともつことである。選挙区に「おみやげ」を持っていかなければつぎの選挙で勝てないのだから「全国民の代表」だなんて格好つけていられないと言うのだったら、つまり選挙区制が憲法の予定する国会議員のあり方を妨げているのだとしたら、選挙制度として選挙区制はやめるべきである。これが最も理屈に適う結論である。



 

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