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浦部法穂の「憲法雑記帳」

 

第3回 「合区」解消へ「改憲」?


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2016年8月8日

 先の参議院議員選挙では、「改憲勢力」が3分の2を超える結果となり、これでとうとう衆参両院とも3分の2の壁が突破されることになってしまった。自民・公明や「維新」などに票を投じた人がすべて「改憲」を支持しているというわけではないだろうし、「改憲勢力」といってもどこをどう変えるかの中身については党派間でばらつきがあり必ずしも一枚岩ではない、などと言われるが、「憲法改正」に執念を燃やす安倍首相は、中身は何であれまずは「実績」作りということで、この機を逃さず「改憲」を仕掛けてくるだろう。

 そうしたなかで、「改憲候補」として急浮上してきているのが、先の参議院選ではじめて導入されたいわゆる「合区」を解消するための憲法改正である。以前に書いたように(『憲法理論入門第19回』(2016年4月5日))、先の参議院選では、「一票の格差」是正のために、人口の少ない島根県と鳥取県、高知県と徳島県がそれぞれ「合区」され、都道府県単位の選挙区という従来の選挙区割りがはじめて変更された。しかし、この「合区」に対しては、当事者たる4県の住民を中心に、選挙前から、そして選挙後にはますます、批判や不満が強く出された。「一票の格差」是正のためといいながら、この「合区」を含む定数見直しでもなお最大3倍程度の格差が残って、違憲状態が解消されたわけではなく、そもそもが場当たり的な措置でしかなかったから、批判や不満が出るのは当然といえば当然である。が、選挙が終わるや、自民党などからは、自分たちが提案して決めたことだということも忘れたかのように、つぎの選挙までには「合区」を解消すべきだとの声が吹き出し、さらに、全国知事会は「都道府県ごとに集約された意思が国政に届けられなくなるのは非常に問題だ」として、「合区」を早急に解消し、これに関する「憲法改正」についても議論すべきだ、とする旨の決議を採択した(7月29日)。

 「合区」解消と「憲法改正」が、どうつながるのか?最高裁は、参議院選挙区の「一票の格差」を「違憲状態」とした2012年の判決で、「参議院だから投票価値の平等の要請が後退してよいと考えるべき理由はない」、「より適切な民意の反映が可能となるよう、都道府県を選挙区単位とする方式を見直すなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを早急に行うべき」旨、述べていた(この判決では、「違憲状態」とした裁判官が12名、「違憲」としたのが3名、つまり15名の裁判官全員が「違憲」の状態であると判断したことになる)。つまり、都道府県単位の選挙区割りを合憲的に維持することはもはや不可能だ、ということである。だから、あくまで都道府県単位にこだわるなら、「憲法改正」しかないことになるのである。

 では、その「合区」を解消するために、憲法のどこをどう変えるのか?憲法には、「選挙区」に関しては「法律でこれを定める」(47条)とあるだけで、参議院の選挙区を都道府県単位にするとは、どこにも書いてない。とすれば、たとえば47条に、「ただし、参議院選挙区選出議員の選挙区は、一の都道府県の区域とする」というような規定を加えれば、それで解決できそうにみえる。しかし、事はそれほど単純な話ではない。まず第一に、仮に都道府県単位の選挙区ということが憲法上規定されたとしても、だから「一票の格差」が許容されるということになるわけではない。これを両立させようとすれば、(都市部への人口集中が続くかぎり)参議院議員の総定数をその都度その都度増やしていくしかないことになるが、それでいいのか(2015年人口速報をもとに、都道府県単位の選挙区で「一票の格差」を可能なかぎり最小に押さえようとすれば、私の簡略な試算では、選挙区選出議員の総数はすでに424人必要になる)。あるいは、たとえば鳥取選挙区からは2人の議員、東京選挙区からは46人の議員(2015年人口速報をもとに計算すればそうなる)というように、都道府県間で選出される議員の数に極端な不均衡が生ずることになるが、こうしたことは都道府県単位ということを重視する立場と相容れるのか、というような問題が出てくる。

 こうした問題を解決するためには、さらに憲法43条を改正して、参議院は「全国民を代表する」のではなく「各都道府県を代表する」議員で組織する、とすればいいようにみえる。都道府県代表ということなら、各都道府県から、その人口には関係なく、同数の議員を選ぶ、という形にすべきであるから、「一票の格差」問題は考慮する必要はないことになる(ここに下手に中途半端な人口比例原則を持ち込むことは、投票価値も不平等になり、かつ都道府県間の不平等も生じさせる、というように、何もかもが不平等な制度になってしまう)。しかし、それならば衆議院はどうするのか?衆議院議員は「全国民の代表」で参議院議員は「都道府県の代表」とするのなら、衆議院と参議院の関係やそれぞれの権限にかかわる憲法の規定は全面的に見直す必要が出てくるだろうし、なによりも、連邦制国家でもない国で明確に地域代表として位置づけられる院を置くというのは、どのような代表民主制観を前提としているのか、その「哲学」が問われることとなる。そういう根本的な議論を抜きにして安直に「都道府県代表」などとしたら、あちこち矛盾だらけの憲法になってしまうであろう。

 そしてもう一つ、以上の議論のそもそもの前提問題として、都道府県という存在は少なくとも憲法上明確に位置づけられた存在ではない、ということに気付かなければならない。憲法は、地方自治の主体として「地方公共団体」というものを掲げるが、「地方公共団体」がどんなものかは、「地方自治の本旨」にもとづいて法律で定める、と規定するのみである(92条)。つまり、都道府県というのは法律上定められた存在であって(地方自治法1条の3第2項)、憲法は都道府県というものの存在を当然の前提としているわけではないのである。だから、もし参議院を「都道府県代表」として位置づけるのなら、都道府県というものを憲法上の存在として明確に位置づける必要がある。それは、日本国憲法における地方自治の位置づけをどう考えるかという問題にもつながっていく。「都道府県代表」というはっきりした位置づけにしないとしても、そもそも都道府県という単位を、憲法上明確に位置づけられているわけでないにもかかわらず、どこまで重要視するか、ということじたいが、地方自治のあり方についての本質的な議論を要求するものなのである。「合区」解消のための「改憲」というと簡単な話のように聞こえるが、それは、代表民主制のあり方、衆参両院の関係のあり方や二院制のそもそもの存在理由、あるいは地方自治のあり方など、憲法全体、とりわけ統治機構にかかわる規定の全体に、それもより根源的なところにかかわる問題として、関係してくるのである。

 「合区」解消が目的なら、もっと簡単な方法がある。全国一区の比例代表にすればいいのである。そうすれば、衆議院の選挙制度との違いも明確になるし、なによりも「地域代表」的な意識を払拭して本当の意味での「全国民の代表」で構成される院として、参議院の存在意義も高まると思うのだが。



 

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