法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

浦部法穂の「憲法雑記帳」

 

第7回 「従属ボケ」


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2016年12月5日

 アメリカの次期大統領に「まさか!」のトランプ氏で、「この先どうなる?」と、あちこちに動揺が広がっている。「自分は予想していた」などと言う人もいるが、後からならどうとでも言えよう。ただ、このトランプ氏の選挙手法は、大衆受けする分かりやすい「敵」を仕立てて、国民のあいだに鬱積する不満や閉塞感をそこに向かわせ、その「敵」を徹底攻撃することで大衆の支持を獲得する、というもので、日本ではすでに、「小泉劇場」や「橋下劇場」などの「劇場政治」という形でお馴染みのものであった。そしてそれは、歴史を遡れば、あのヒトラーの手法そのものでもあった。そういう意味で、これは、「ポピュリズム」などという生易しい(?)ものではなく、「ファシズム」につながるものだといわなければならない。

 こうした政治手法に国民の支持が集まっていくという動向は、いまや、日本や今回のアメリカだけではなく、イギリスでもフランスでも、そのほかドイツ、イタリア、オランダ、オーストリアなどのヨーロッパ諸国でも、強まっている。21世紀になって、人々が「国」の枠組からようやく解放されるかに思われたのも束の間、いま再び、人々は「国」という枠組に閉じこもろうとしているようにみえる。まさに100年前への後戻りである。にもかかわらず、そして忍び寄る「ファシズム」への危機意識をまったく持つことなく、「ポピュリズム」を「悪」と決めつけるべきではないなどとして、こうした動きを後追い的に肯定する論調が、一部「知識人」やマスコミによって広められつつある。人間は、科学技術の面では、それこそ「神」の領域にさえ踏み込まんばかりの「進歩」を達成してきているが、社会を進歩させる能力はまったく持っていない、ということなのであろうか。

 それはともかく、「想定外」のトランプ大統領誕生で慌てた安倍首相は、いち早く、世界のどの国の首脳にも先駆けて「いの一番」に、ニューヨークに馳せ参じ、トランプ「次期大統領」と会談した。安倍首相は、世界の首脳のなかで一番最初にトランプ氏と会談できたことを誇らしげに言い、また、マスコミにおいても「他の国に先駆けて一番に会談できたことは大変良かった」などと好意的に評価する記事や「識者」の見解がみられた。しかし、一国の首相がまだ大統領に就任してもいない「一民間人」の自宅にまで出向いてご機嫌伺いをするのが、はたして褒められたことなのであろうか。見方によっては「真っ先に尻尾を振りに行った」と見られても仕方がないのではないか。とすれば、むしろ屈辱的に卑屈な姿勢として非難されるべきなのに、そういう声は、この国ではほとんどあがらなかった。《アメリカの言うことや要求にはなんでも従うべきだ、それしか日本の生きる道はないのだから》という「従属根性」が染みついているからだろう。これを「従属ボケ」と言わずしてなんと言うべきか。

 選挙戦中、トランプ氏は、《アメリカが攻撃されても日本は助けに来なくていいなんていう取り決めは割に合わんだろう》と、日米安保体制の見直しを示唆するとも受け取れることを言い、《駐留米軍経費を全部負担せよ、さもなくば日本から米軍を引きあげさせる》などということも、さかんに言っていた。こうした発言に、日本の支配層も、そしてメディアも、「まさか本気ではあるまい」と半信半疑ながらも、もし本当に米軍が引きあげるなんてことになったら大変だ、とばかりに、「日米同盟の重要性」をああだこうだと論じたて、トランプ氏にもそれを理解してもらえるようにすべきだ、という空気に、完全に染まっている。これでは、トランプ政権が米軍経費の負担増を要求してきたときに絶対に断れないし、アメリカの軍事行動に自衛隊も参加させよと要求してきた場合にも、ただただ従うしかないこととなろう。

 一体全体、なぜこうも「従属根性」が染みついてしまっているのか。なぜ「米軍を引きあげさせる? 結構じゃないか、出て行ってもらおう」とならないのか。「日米同盟」という名の「対米従属」以外に、日本が生きていく道を構想することができないのだとしたら、日本の「知性」はあまりにもお粗末といわざるをえない。トランプ氏がああ言ったこう言ったで右往左往するのでなく、いまこそ「従属」以外の道を真剣に構想すべきときととらえるべきである。論ずべきは、トランプ大統領がどう出るか、それに対してどう対応するか、ではなく、この国をどんな国にするのか、である。その構想を、政治家任せにすることなく、私たち自身が、たとえ稚拙なものであっても、どんどん語り合っていけば、やがて「従属ボケ」から覚める日も来るのではないかと思いたい。



 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]