2020.11.16 シネマde憲法

映画『私たちの青春、台湾』(原題:我們的青春 在台湾 Our Beloved Youth)

花崎哲さん(憲法を考える映画の会)



 映画の前半、どうしてこんなにサクサクと登場人物の活動家の言葉が気持ちに入ってくるのかなと思いました。それらはほとんど活動のこれからをどうしようとか、どうしたら良いかという希望に満ちた言葉だったからかもしれません。あるいは ここで描かれている登場人物と同じく、自分も何らかの形で市民運動、社会運動に加わりたい、仲間だ、同じ変革を求めているという気持ちがそう感じさせているのかもしれない、と気付きました。悩みや落ち込みの感情も含め、仲間である取材者に対して、ほんとうに素直に、正直に語られていることも好感と共感をもたらします。

 映画の後半からラストへ、そのような希望に満ちた言葉は聞こえなくなり、自分たちの置かれた状況の説明ばかりになっていきます。それもまた私には実感のある、気持ちに入ってくる言葉でした。

 

【STORY】

 2011年、魅力的な二人の大学生と出会った。台湾学生運動の中心人物・陳為廷(チェン・ウェイティン)、台湾の社会運動に参加する人気ブロガーの中国人留学生・蔡博芸(ツァイ・ボーイー)。やがて陳為廷は林飛帆(リン・フェイファン)と共に立法院に突入し、ひまわり運動のリーダーになった。“民主”が台湾でどのように行われているのか伝えたいと蔡博芸が書いたブログは、書籍化され大陸でも刊行される人気ぶりだ。

 彼らが最前線に突き進むのを見ながら、「社会運動が世界を変えるかもしれない」という期待が、私の胸いっぱいに広がっていた。

 しかし彼らの運命はひまわり運動後、失速していく。ひまわり運動を経て、立法院補欠選挙に出馬した陳為廷は過去のスキャンダルで撤退を表明。大学自治会選に出馬した蔡博芸は、国籍を理由に不当な扱いを受け、正当な選挙すら出来ずに敗北する。

 それは監督の私が求めていた未来ではなかったが、その失意は私自身が自己と向き合うきっかけとなっていく——(映画『私たちの青春、台湾』オフィシャルサイト「STORY」より)

 

 同時代を生き、同世代で闘ったことを懐かしむような映画はたくさんあります。いわばそれは共同の幻想。たいてい挫折やうまくいかなかったことに対しての懐古と悔恨の入り交じった屈託は甘酸っぱいものになっています。しかし、この映画のラストはそんなものでなく、むしろ引き裂くような痛みが、カメラの反転シーン(泣き出した監督に活動家のひとり、蔡博芸が『早く監督を撮って!早く!』というところ)にあります。

 

 「ひまわり運動」の後、その運動の熱が冷めてしまったかのような二人の活動家の姿に、作品をどうまとめたらよいか、わからなくなってしまった映画の作り手、傅楡(フー・ユー)は、二人を呼んでそれまで編集した映像を見せます。しかし二人の感想は、かつての活動をしているときの情熱を感じさせたり、呼び起こすようなものではありませんでした。

 そこで映画の作り手の「わたし」は、「じゃあ私のことはどう思う?」とふたりに尋ねます。自分自身に問い返さなければ、駄目なのだとぼんやりと意識していたからでした。

 「二人に引っ張られてはならないし、問題を二人に押しつけてはならない。自分自身に問いかけてみるんだ。自分が今、考えていることは何なのか、あの二人に対して、自分自身に対して言いたいことは何なのか。それをこの映画の中で言えるかどうか。大事なことは自分自身にあるんだ。」

 ここのところで、取材の対象は、活動・運動を共にしてきた仲間から、それに対してどうしたいと思う自分自身への問いかけに変わります。この映画自体が「あの二人の物語というわけでなく、わたしの物語というわけでもなく、私たちの世代の物語なのだ」と作り手が、映画の着地点がハッキリとわかることになり、自分の作りたい映画がわかることになります。

 「活動」「運動」「未来」を共にしてきた、希望を共有していたと思った仲間と、それぞれ情況が変わっていってしまったことへの実感。裏切られるというのでもなく、結局ひとりひとりが自分で考えて、自分の道を選んで前向きに行かなくてはならない、まさにそれが「私たちの青春」なのだろうと思います。

 社会運動・活動の中にある人に、そしてドキュメンタリーを作ろうとしている人に見てもらいたい映画と思いました。社会活動をおこす人たちと、それに映画という表現で参加する作り手、その接点というか交錯点の現場に立ち会った気がします。

 

 この映画の監督の傅楡(フー・ユー)さんの本『わたしの青春、台湾』のまえがきの中にに次のような文章があります。

 「しかし映画『私たちの青春、台湾』は単に既に過去となった歴史を記録したり、今後引き続いて起こるかもしれない何らかの局面を予見したりするものではありません。最も重要なことは、この映画が青春に関するものであること、成長に関するものであること、希望と失望に関するものであること、さらに自己嫌悪にどう立ち向かっていくのかに関するものだということです。こういうことは、かりに政治的な角度から考えることがなくとも、心が青春の状態にある人なら誰でも直面するはずの人生の課題なのです。」

 

【スタッフ】

監督:傅楡(フー・ユー)

プロデューサー:洪廷儀(ホン・ティンイー)

詞・曲・演唱:楊彝安(ヤン・イーアン)

製作:七日印象電影有限公司7th Day Film

配給:太秦

2017年制作/台湾映画/116分

 

【キャスト】

陳為廷(チェン・ウェイティン)

蔡博芸(ツァイ・ボーイー)

林飛帆(リン・フェイファン)

金馬奨 最優秀ドキュメンタリー映画賞2018

台北映画祭 最優秀ドキュメンタリー映画賞2018

 

公式ホームページ

予告編