2022.04.18 シネマde憲法

映画『コスタリカの奇跡~積極的平和国家のつくり方~』(原題:A BOLD PEACE)

花崎哲さん(憲法を考える映画の会)



 憲法9条が指し示す「非武装中立」については、長いこと、現実を知らない「絵に描いた餅」とか、「お花畑」とか言われ続けてきました。「立憲」を党名に掲げる野党であっても、その実現についてあまり主張することはなくなっています。
 しかし、それを実現し、65年以上守り続けてきたコスタリカの歴史は、それが決して「お花畑」などではないことを、市民たちが胸を張って語っています。
 「非武装」を成し遂げ、続けているばかりでなく、常に再軍備の圧力や策動にさらされても、それを市民が闘い続けることによって「非武装」の継続を可能にしているからです。
 この映画は、日本国憲法の前文と9条に示された「非武装」を実現するということはどういうことなのか、私たちがこれからの政治や外交の現実の中で、世界中の平和と私たちの社会のためにどう活かしていったらよいかを教えてくれる教科書のようです。

【映画の解説】
 世界には軍隊なしで国の平和を保ってきた国々がある。そんな数少ない国の一つで、1948年に常備軍を解体した国がコスタリカだ。コスタリカは軍事予算をゼロにしたことで、無料の教育、無料の医療を実現し、環境のために国家予算を振り分けてきた。その結果、地球の健全性や人々の幸福度、そして健康を図る指標「地球幸福度指数(HPI)」2016の世界ランキングにおいて140ヶ国中で世界一に輝いているのがコスタリカである。またラテンアメリカで最も安全とされている国でもある。
 『コスタリカの奇跡 ~積極的平和国家のつくり方~』は、1948年から1949年にかけて行われた軍隊廃止の流れを追いながら、コスタリカが教育、医療、環境にどのように投資して行ったのかを詳しく説明する。アメリカでは公的債務、医療、そして軍事費が日増しに増大していっていることとは対照的だ。この映画は軍隊廃止を宣言したホセ・フィゲーレス・フェレールや、ノーベル平和賞を受賞したオスカル・アリアス・サンチェスなどの元大統領や、ジャーナリストや学者などが登場する。世界がモデルにすべき中米コスタリカの壮大で意欲的な国家建設プロジェクトが今明らかになる。(公式ホームページより)

 映画のはじめの頃、市民へのインタビューが続きます。この「非武装」という政治判断の意味が市民にきちんと理解されていて、平和への意識に浸透しているということがわかってきます。「非武装」の何が良いのか?軍事費にかかる予算をまわして「人」のために使う、つまり教育や福祉、医療に使っていくという政策が、どのように自分たちの生活に結びついているのか、その実績を、市民が実感としてとらえていることがわかります。
 「非武装」という政策を守り続けたものはそれだけではありません。
 この映画を見るまで、私は知らなかったのですが、コスタリカの歴史には、「非武装」を揺るがす政治上、歴史上の事件や事実がいくつもありました。その一つは、この軍備を持たないという理想を実現させたものが武力革命であったこと。それから歴史的にも「非武装」を維持させることが難しくなる危機が何度もあったこと。その度に現れた強い意志を持った政治指導者が市民に問いかけ、市民の強い支持によって、「非武装中立」をなくそうとする力を押し返してきたことです。
 とくに他の中南米諸国と同じように、アメリカの軍事的、政治的な干渉や圧力は執拗でひどいものがあり、その背景には経済的な利益を何より優先させようとする新自由主義のねらいと支配が強く働いていました。
 そして、それらにもかかわらず、コスタリカが「非武装」を守り続けられた理由は、(1)一貫していた市民、国民の「非武装」ということに対する理解と支持、(2)時々の政権による多方面の外交努力や国連をはじめ国際的な法の枠組みの活用、(3)裁判所など民主主義を守る力の自立性などがあることを、この映画では説明しています。

 そもそも「軍隊」というものに対するとらえかたもコスタリカの市民がよく理解していることがわかります。そこにもこの国が続けてきた教育の成果が現れているようです。
 「軍隊について教えられたことはシンプルです」と若者が語ります。「軍隊は特定の集団が権力を得るための道具」と教えられたと言います。軍隊は他の国に対して「戦争できるぞ」というメッセージに過ぎないから、と言います。「小さな国が軍隊を持ってなんになるというのだ」というある意味でのわりきり、それがこの国ではちゃんと説得力を持っているようです。百害あって一利なし、つまりそれでも権力者が軍を手放すことができないのは、つまり自分を守るものとだけ考えて、彼等が臆病で、勇敢でないからというのです。戦争する気がなければ軍隊はいらないし、軍隊がなければ「敵」もないのです。
 もちろん、そうした「理想」が試されることは何度もありました。2002年イラク戦争の時にアメリカ側についた過去があります。でもその時は、ロースクールの学生たちによる違憲性を問う訴訟によって、最高裁が違憲判決を出し取りやめになったという事実もあります。ここでも民主主義と法のルールが確実に働いていることがわかります。
 そしてまた、この映画でも、コスタリカの人々の生活を脅かす現在の問題として、経済の問題、とくに「新自由主義」が作りだす「戦争」の圧力やその社会分断についても明確に説明をしています。それらに対してどう闘っていくのか、そのことも彼等の不断の努力を持ち続けることにあるいうことがわかってきます。それらはまさに今、私たちの問題であり、世界中が直面している問題でもあります。
 
 今、ウクライナ・ロシア戦争の最中にあって、この映画を見ると、軍隊や戦争についての考えに新たに気付かせるものがいくつもあります。つまり、戦争にあって国と国とのどちらが正しくて、正しくないということはないという視点です。その戦争によって苦しむのは誰か、利益を得るものは何かを見ていかなくては戦争をつくり出すものの根本の解決にはならないということです。
 手本を示すというか、コスタリカの市民は身をもって裸になり、「非武装」を守り続けました。わたしたちもまた、まやかしの「安全保障」に身を任せ、戦争を繰り返すのでなく、市民が論議をねばり強く重ね、自分たちが将来どのような世界を創っていくか考え、話し合って行動して行かなければと、ある意味、もっと自信を持て、と励まされるような気持ちになります。
 市民が憲法9条をあらためて支持し、その実現を図る限り、それを変えることはできない、と。
 
【スタッフ】
監督:マシュー・エディー、マイケル・ドレリング
プロデューサー:マシュー・エディー、マイケル・ドレリング
制作:ソウル・フォース・メディア 
制作協力:スパイラル・ピクチャーズ
出演:ホセ・フィゲーレス・フェレール、
オスカル・アリアス・サンチェス、
ルイス・ギジェルモ・ソリス、
クリスティアーナ・フィゲーレス他
配給:ユナイテッドピープル
2016年制作/アメリカ・コスタリカ/90分
原題:A BOLD PEACE

公式ホームページ
予告編

上映情報:「憲法映画祭2022」(東京・吉祥寺)の中で上映

『コスタリカの奇跡』は4月24日(日)17時30分〜19時

上映会場:武蔵野公会堂ホール(中央線吉祥寺駅南口2分)

憲法を考える映画の会